史上最高のベーシスト50選|2020年ベスト

45位 エスペランサ・スポルディング

Elaine Thompson/AP/Shutterstock

エスペランサ・スポルディングのライブを一度観ただけでは、彼女の真価を知ることはできない。オールドスクールのスタンダードを囁くように歌い上げる一方で、スムーズなR&Bや唸るようなプログレロックまでを飲み込んだオリジナル曲は大胆なまでにフューチャリスティックだ。その原動力となっているのは、巧みで極めて多彩な彼女のベースプレイに他ならない。親交のあったプリンスの曲の超絶ファンキーなカバーを披露し、優美でしなやかなエレキベースのフレージングによってバンドを束ね、ステージではウェイン・ショーターやテリ・リン・キャリントン、ジャック・ディジョネット、ジョー・ロヴァーノ等と壮絶なインプロセッションを繰り広げる。幼くしてヴァイオリン奏者として類まれな才能を発揮した彼女は、高校在学中にふとしたことからベースを弾くようになる(「ある日目覚めると、自分が仕事上のパートナーに恋をしていることに気付く、そんな感じだったの」彼女はベースを選んだ経緯についてそう話している)。それ以降進化を続け、21世紀において最も才能あるベーシストの1人として知られるようになった彼女は、これまでに4つのグラミー賞を獲得している。ドラマーでスポルディングのコラボレーターのキャリントンは2018年のインタビューで、彼女を過去のジャズベース界の偉人たちと比較することはフェアではないと語っている。「女性的な要素を取り入れることは、音楽の世界じゃ今は当たり前になってる。(50年代および60年代のジャズ界のレジェンド)ポール・チェンバースだって、彼女のようには弾けなかったんだから」キャリントンはスポルディングについてそう話している。「彼女はひとつのスタイルに固執しない。どこか儚くもあるんだけど、だからこそ美しい」




44位 ジョセフ・マクワラ


ジョセフ・マクワラ(Joseph Makwela)は南アフリカにおけるベースのゴッドファザーだ。60年代および70年代のヒット曲を演奏するレジデントバンドだったマッコナ・ツホーレ・バンド(モータウンのファンク・ブラザーズ、あるいはロサンゼルスのロッキング・クルーにに対する南アフリカからの回答と呼ばれた)の中心メンバーだった彼は、ムバカンガと呼ばれるスタイルのサウンドを生み出した。南アフリカ初のエレキベースプレイヤーとなった彼は、ザ・シャドウズのライブを観たことをきっかけに南アフリカに楽器を輸入した白人から、中古のベースを購入したという。アパルトヘイトによる人種差別が横行するなか、マクワラは独自のスタイルで南アフリカの音楽を生まれ変わらせた。ポール・サイモンの『グレイスランド』でベースを弾いたバキティ・クマロは、マクワラに影響を受けたと公言している。「ジョセフ・マクワラは、私が初めて観たエレキベースのプレイヤーだった」クマロは2016年にBass Player誌にそう語っている。「フレットレスベースを弾き始めた時、ハイポジションでメロディーを奏でる彼のスタイルを参考にしていた」。アグレッシブでアッパーな彼のプレイスタイルは、ムバカンガのクラシックであるマホテラ・クイーンズの「Umculo Kawupheli」や、マハラティーニの「Ngicabange Ngaqeda」におけるグルーヴの核となっている。『グレイスランド』と名コンピ『The Indestructible Beat of Soweto』によってムバカンガが世に知れ渡ったことをきっかけに、マッコナ・ツホーレ・バンドは80年代に再結成を果たした。




43位 マイク・ワット

Karjean Levine/Getty Images

70年代後半、シンガーのD・ブーンとドラマーのジョージ・ハーリーと共に、カリフォルニアのサンペドロでミニットメンを結成したマイク・ワットは、ポピュラー音楽史上屈指のラディカルなアプローチを実践してきた。「彼はベースとドラムを徹底的に前に出そうとしていた」ワットはブーンについてそう語っている。「まるで財産を再分配するかのようにね。面白いアイディアだと思ったよ。ある集団の一部として演奏することは、他のプレイヤーたちと高度なコミュニケーションを試みることだと思ってるんだけど、彼のアイディアは俺のそういう考え方ともマッチした」そのコンセプトを核とし、ワットはファンクやジャズ、フォークにブルース、さらにはラップまでをも消化することでパンクを生まれ変わらせ、簡潔で尖った楽曲を数多く生み出した。1982年発表の「Bob Dylan Wrote Propaganda Songs」のイントロにおける雷鳴のようなベースは、ワットがハードコアのシーンのどんな猛者とも対等にやり合える強者だったことを物語っている。ミニットメンだけでなく、彼がハーリーと始めたfIREHOSE、パンクシーンにおけるベーシスト仲間でかつては妻でもあったKira Roesslerと結成したDos、再結成後のストゥージズ、そして現在も活動中の自身のグループにおいても、彼のスタンスは変わらない。ヒーローの1人と崇めるクリームのジャック・ブルースがそうだったように、ワットはベースを前に出そうとすることでプレイヤーとしての真価を発揮する。快活で溢れんばかりのエネルギーに満ちたフレーズの数々は、パンクの生ける伝説と呼ばれる彼の多弁ぶりを物語るかのようだ。




42位 トニー・レヴィン

Koh Hasebe/Shinko Music/Getty Images

トニー・レヴィンの唯一無二のスタイルは、ジョン・レノンやデヴィッド・ボウイ、そしてシェールの作品でも耳にすることができる。しかし最も広く知られているのは、キング・クリムゾンとピーター・ガブリエル(レヴィンのことを「ボトムエンドの皇帝」と呼んだ)の作品への参加だろう。ガブリエルのヒット曲「ショック・ザ・モンキー」等におけるクールなタッピングによって、彼はチャップマン・スティックのサウンドを世に広めた。70年代にセッションミュージシャンとしてキャリアをスタートさせた彼は、ポール・サイモンのナンバーワンヒット「恋人と別れる50の方法」にもクレジットされている。ガブリエルがジェネシス脱退直後にレヴィンに声をかけて以来、2人の蜜月は現在に到るまで続いている。「ビッグ・タイム」も「スレッジハンマー」も、レヴィンなしでは生まれ得なかっただろう。7年の休止期間を経てキング・クリムゾンを再始動させたロバート・フリップは、『ディシプリン』を生み出す80年代の黄金ラインナップの1人としてレヴィンを迎えた(彼はベーシストとして、クリムゾンにおける最長在籍記録を保持している)。またレヴィンは「スリップ・アウェイ」と「ホエア・アー・ウィ・ナウ?」という、後期のボウイの傑作バラードでもソウルフルなベースラインを弾いている。彼は自身のパーカッシブなアプローチをサポートする「Funk Fingers」なるガジェットも発明した他、自身のプロジェクトであるスティック・メンの「Not Just Another Pretty Bass」では、チャップマン・スティックの新たな可能性を引き出してみせた。「敢えて言うと、オスカー・ペティフォードがジャズでやっていたことを、俺はロックやポップにおけるベースに落とし込んだんだよ」レヴィンは2013年に、その独創的なスタイルのルーツについてそう語っている。「口で説明するのは難しいけど、簡潔に言うとすれば、あるべき音をあるべきフィーリングで鳴らすってことさ」




41位 ジョージ・ポーターJr

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ミーターズのベーシストであるジョージ・ポーターJr、そしてドラマーのジガブー・モデリストが生み出す極めてタイトなグルーヴは、彼らの本拠地であるニューオーリンズのユルいパーティーのバイブスを体現している。ポップス史上最もファンキーなバンドのひとつに今も在籍する彼が、「シシー・ストラット」「ファンキー・ミラクル」「ジャスト・キッスド・マイ・ベイビー」「ハンド・クラッピング・ソング」等のファンククラシックで聴かせる液体のように滑らかなラインの数々は、故郷のセカンド・ライン・パレードの快活なムードを宿しており、腰にくる低音がスピーカーのコーンを激しく揺さぶる。大傑作の2ndアルバム『ルッカ・パイ・パイ』に収録されている「パンジー」において、ごくわずかなスペースにシンコペーションのパターンを刻んでいくさまは圧巻だ。ポーターとミーターズの功績はヒップホップの発展に大きく貢献し、ア・トライブ・コールド・クエスト、サイプレス・ヒル、N.W.A、パブリック・エネミー等が彼らの曲をサンプリングしている。またプロデューサーのアラン・トゥーサンのお気に入りでもあったポーターは、パティ・ラベルやドクター・ジョン、ロバート・パーマー、リー・ドーシー、アーニー・K・ドゥ等の作品でもベースを弾いている。ポーターは自身のユニークなスタイルについて、多様な音楽的バックグラウンドが基盤になっていると語る。「僕はクラシックギターを学んでいたから、ベースのフォーミュラが理解できた。レッスンで弾いてたのはカントリーやウェスタンの曲だったけどね」彼はつい先日そう話している。「でも僕は、ベースラインのセオリーとコードを同時に吸収しようとしてたんだ。だから機会が訪れた時に、僕は迷わずギターからベースに転向した」


Translated by Masaaki Yoshida

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