史上最高のベーシスト50選|2020年ベスト

9位 ポール・マッカートニー

Express/Getty Images

どのような括り方であれ、ポール・マッカートニーが過小評価されることはまずない。シンガー、ソングライター、そしてパフォーマーとして最大級の評価を得ている彼だが、ベーシストしての実力については見過ごされがちだ。1961年にハンブルクを拠点にしていたビートルズからスチュアート・サトクリフが脱退したことを受け、彼は必要に迫られる形で初めてベースを手にした。「ベーシストの座を奪うために、僕がスチュを脱退に追い込んだっていう説があるよね」マッカートニーは伝記作家のバリー・マイルズにそう語っている。「馬鹿げてるよ。進んでベースを弾くやつなんていないし、当時はベーシストなんてほとんどいなかったんだ」。だが彼はベースを自身の一部とし、スタジオ作業におけるビートルズのクリエイティビティが爆発した60年代後半にHofnerから乗り換えたリッケンバッカーは彼の代名詞となった。「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ア・ダイアモンド」「ディア・プルーデンス」におけるクールでステディなラインから、「ペイパーバック・ライター」「レイン」「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」でのカラフルなリードまで、彼のベースプレイには親しみやすいボーカルとは異なる冒険心が反映されている。遊び心とメロディセンス溢れる当時の彼のスタイルは、影響を受けたと度々公言しているモータウンのジェームス・ジェマーソンを思わせる。1970年以降は、「心のラヴ・ソング」や「グッドナイト・トゥナイト」等のディスコ調の曲でも、彼は抜群のリズム感を発揮している。その後はベースを手にする機会が減っていくものの、彼は優れたベースラインが持つ無限の可能性を証明したプレイヤーとして、今も無数のベーシストたちにインスピレーションを与え続けている。




8位 ジャコ・パストリアス

Ebet Roberts/Getty Images

「僕の名前はジョン・フランシス・パストリアス3世、世界最高のベースプレイヤーだ」1974年にマイアミで行われたウェザー・リポートのライブのバックステージで、キーボードプレイヤーのジョー・ザヴィヌルとの対面を果たした際に、彼は開口一番そう言い放った。ザヴィヌルは笑い飛ばしたが、パストリアスの加入をきっかけにバンドがフュージョン界の頂点に上り詰めた数年後には、誰も彼の発言をジョークとは受けとめなくなっていた。小気味のいいハーモニクスを多用した高速ビバップを聴かせる1976年発表のソロデビューアルバムは、エレクトリックベースの可能性を大きく拡大した。同年にはウェザー・リポートに加入し、彼がトレードマークであるフレットレスベースのサウンドと不遜なまでのセンスによってオーディエンスを沸かせると、目立たない楽器というベースに対する従来のイメージは一変した。自己顕示欲を強く示しながらも、彼はコラボレーションにおいても抜群のセンスを発揮した。70年代中盤から80年代にかけて(彼は35歳にして悲劇的な死を遂げる)、パット・メセニーやジミー・クリフの作品、特に『へジラ』をはじめとするジョニ・ミッチェルの実験色の強いアルバムの数々で、パストリアスの革新的なベースプレイは見事に活かされている。「彼は私の空想が生み出したプレイヤーなのかとさえ思った。私は彼に何ひとつ指示を出す必要がなかったから」ミッチェルはジャコについてそう話している。「私がすべきことは彼の好きなようにやらせて、生まれてくる素晴らしいアイディアの数々を讃えることだった」




7位 ラリー・グラハム

Don Paulsen/Michael Ochs Archives/Getty Images

スライ&ザ・ファミリー・ストーンのベーシストであるラリー・グラハムは、「サンキュー」や「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」等のヒットを通じてスラップベースを世に浸透させた。彼の正確無比でパーカッシブなアプローチ(グラハムはそれをthumpin’ and pluckin’と呼んだ)は、サンフランシスコを拠点としていた母親を含むトリオでの活動を通じて培われた。そのグループのドラマーが脱退したとき、グラハムは「キックの代わりに親指で弦を叩き(thumpin’)、スネアの代わりに指で弦をはじく(pluckin’)」ことを考えついた。そのテクニックはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの楽曲に不可欠な要素となり、ポピュラー音楽におけるベースの役割を刷新するとともに、プリンス(グラハムと幾度となく共演し、友人でもあった彼を「僕の師匠」と呼んだ)等の次世代のアイコンたちに大きな影響を与えた。「50年代の音源はメロディがよく聴こえるようにミックスされていて、リズムパートの音量は絞られているケースが多い」ブライアン・イーノは1983年にそう語っている。「スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『フレッシュ』はその常識を覆した。あれ以降、ミックスにおけるリズムセクション、特にベースとドラムの存在感が大幅に増した」。その理由について、グラハムは極めてシンプルな考えを持っていた。「体が自然に動き出すようなパワフルな演奏は無視できないさ」


Translated by Masaaki Yoshida

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