DAWと人による奇跡的なアンサンブル 鳥居真道が徹底考察

先の「Once in a Lifetime」の例のように、人力タイミング補正作業を経た耳で聴くといろんな音源の聴こえ方が変わってきました。特に感動したのがパーラメントの名曲「Give Up The Funk(Tear The Roof Off The Sucker)」。とりわけジェローム・ブレイリーのドラム。



先述の作業におけるセオリーに照らしてみると、ハットが所々先走りすぎているようにも聴こえますが、この生き生きしたハットこそがこの曲に躍動感を与えているように思います。この走りそうで走らないある種の緊張感は何によって支えられているのでしょうか。

どうもブレイリーはバックビートを叩くたびにハットの位置を微調整しているようです。さらに言えば、このバックビートに急ブレーキをかけられたときに発生するG的なものを感じます。つんのめって、急ブレーキ。つんのめって、急ブレーキ。この繰り返し。

後半に進むにつれて演奏に熱を帯びていくのも重要なポイントです。フィルインのキレがどんどん研ぎ澄まされていくし、テンポも徐々に上昇していきます。ざっくりと計測したところ、冒頭と終盤では2〜3程度BPMに変化がありました。

さらに恐ろしいのは、ベースのドラムに対する張り付き方。ブーツィー・コリンズといえば、スパンコールの衣装に星型のサングラス、星型のベースという派手な出で立ちを想像すると思われますが、プレイの内容は頭がクラクラするほど繊細です。

オーディオデータが編集できる機能をもったDAWというものを作り上げた人間に対してすげぇやと思う一方、他方では繊細な音のやり取りをリアルタイムで処理し、奇跡的なアンサンブルを成立させる人間にもすげぇやと恐れおののいた年の瀬であります。



鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

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Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
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Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」
Vol.12
クラフトワーク「電卓」から発見したJBのファンク 鳥居真道が徹底考察
Vol.13 ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」に出てくる例のリフ、鳥居真道が徹底考察
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Vol.16 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの“あの曲”に仕掛けられたリズム展開 鳥居真道が考察
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