DAWと人による奇跡的なアンサンブル 鳥居真道が徹底考察

一音一音、バラバラにしたデータの波形を見ながらグリッドの上に配置していけば、タイミングに関して問題なさそうなものですが、そうは問屋が卸さない。ハットとスネアとキックは当然、音の響き方がそれぞれ異なるので、それを勘定に入れたうえで調整していけなればなりません。グリッドは文字通り補助線として使うことにし、キックやスネアに対して、ハットを少し後ろにずらしたりして、いちばんしっくりくるタイミングを耳で探っていきました。

ハイハットは抜けが良く、アンサンブルの中でも埋もれにくい音です。そして、クローズドで演奏する場合、音価は短い。ドラムセットの中ではリズムのグリッドを点で示す役割を担っています。リズムのガイド役と言っても良いでしょう。

キックとスネアがハットよりも後ろにずれた場合、抜けが良くて目立つというハットの性質から発生する問題がふたつあります。一つ目はハットが走って聴こえてしまうことです。これは当然といえば当然です。二つ目はキックとスネアのアタックをマスキングしてしまうこと。特にスネア。これは音量や定位、EQの調整でクリアできる問題かもしれません。しかし、うまくタイミングを調整するとハットとスネアの音が塊と化し、ひとつの音のようになるので、今回はこれを狙いました。ほんの僅かスネアの後ろに持ってくるとこのようになります。スナッピーの音とハットの音を溶かすようなイメージです。

作業を行った曲のパターンでは3点に加えて、トリッキーなタイミングでタムを使っていました。このタムが曲者で、波形を見て然るべきところに配置してもまったくしっくり来ませんでした。思い切って、グリッドよりも前に置いたところ、リズムがすっきりして聴こえるようになりました。タムの音の立ち上がりの特性上、波形を見て調整すると、聴覚上ではリズムがよれて聴こえてしまうのだと思われます。

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