BiSHモモコグミカンパニーと遠野遥が語る「書くこと」の意味

左からBiSHのモモコグミカンパニー、遠野遥(Photo by Kana Tarumi)



小説に求めること

モモコ:遠野さんの作品の感想をいろいろ書いてきたんですけど……(と言ってノートを広げる)。

遠野:ノート、上下逆じゃないですか。

モモコ:これ、大丈夫です! 逆に書いてるんです。『破局』で主人公がベッドの上で祈るシーン。あれもカフェラテと同じぐらい共感したんです!

遠野:ほんとですか。へー!

モモコ:本当に世界が平和になってほしいって願う。私はそういう人間じゃないんです。自分が良ければいいって思うこともいっぱいあるし。でもたまに、1年に3回ぐらいそういう瞬間が訪れるんですよね。

遠野:うんうん。

モモコ:自分は何も出来ないけど、何もかもいい方向にいきますようにって。自分はどうなってもいいからっていう、そういう瞬間がある。

遠野:私も時々そういうタイミングが訪れるので、実体験で書いてますね。急に来るんですよね。

モモコ:あれ何なんですかね。みんなあることなのかもしれないですね。

遠野:意外とあるあるかもしれないですね。

モモコ:アハハ。そうですね。自分だけだと思ってたけど、みたいな。

遠野:私も割と好きですね。あのシーン。

モモコ:私も……不思議な感覚になりました。こういうのって、小説じゃないとわからないことだなと思って。日常会話の中で「昨日祈ったんだよね」って話さないじゃないですか。そうやって一人の人間を観察できるというか。そこで感じられる安心感みたいなものを小説に求めてたりするのかなって。

遠野:頭の中まで覗けますもんね。

モモコ:うんうん。祈ることって変じゃなかったんだってちょっと救われる気持ちもあったり。

遠野:すごくうれしかった感想で、主人公含めて変な人がいっぱい出てくるから、自分も変で大丈夫なんだって安心したって言ってくれる人がいて。ラクになりましたって。そういう風に言ってくれると、書いてよかったなって思いますね。誰かがこれを読んでラクになってくれるって凄いことじゃないですか。そういう意図はなかったけど、結果的にそうなってくれてよかったなって。

モモコ:私、『改良』に結構救われるところがありました。美意識とか美しくなりたいとか、なんだろうな……言葉では言い表せないんですけど、表舞台に立つこういう仕事を始めてからいろいろ感じるようになって。主人公の気持ち、私はすごくわかって……。救われましたね。主人公が美を求めて四苦八苦してる感じを見て、安心してしまったところがありました。

遠野:『改良』のほうがたぶん好き嫌いが分かれるのかなと思ってて。嫌いな人はたぶんめちゃくちゃ嫌いなんですよ。

モモコ:そうかもしれない。

遠野:始まり方も結構ショッキングで、人の嫌悪感を呼び起こすような内容だから嫌がる人も多いかと思うんですけど、刺さる人には刺さってるので好みが分かれるのかなって。

モモコ:どんどん読みましたね。

遠野:好みが分かれるほうがいい作品だと思うのでよかったです。みんなが「面白かったよ」って言ってるのも、面白くないじゃないですか。

今は芥川賞作家というイメージが強い遠野さんですが、「賞を取るために書く」のではなく、「賞にとらわれずに書けるようになるために、賞を取りにいく」というスタンスが印象的でした。また、自分の文体を探し当てるまで、誰かの作品を見本にすることは恥ずかしいことなんかではなく、まずは型を知ることも書くことにおいてとても大切な作業なのだと知りました。

SNS、本、メディアでの発言、ありがたいことに自分の中の言葉をアウトプットできる場所がたくさん用意されている今だからこそ、どこに自分のどの引き出しを出すのかを意識する必要性も感じました。

今までの私は、書くこと=記録すること、伝えることという認識が強かったのですが、これを機に自分なりに「書くこと」に一層深く向き合っていきたいと思える対談でした。遠野さん、お忙しい中ありがとうございました。現在執筆中だという3作目も楽しみです。



遠野遥
1991年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。東京都在住。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309029054/

モモコグミカンパニー(BiSH)
https://twitter.com/gumi_bish
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。結成時からのメンバーで最も多くの楽曲で歌詞を手がける。読書や言葉を愛し、独特の世界観を持つ彼女が書く歌詞は、圧倒的な支持を集め、作詞家として業界の評価も高い。2018年3月に初の著書『目を合わせるということ』を上梓。2020年12月現在第15刷と異例のベストセラー。BiSHとして、2020年7月には、ライブハウス、CDショップ支援を目的とした初のベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』、メジャー3.5thアルバム『LETTERS』を発売。 2作連続となるアルバム週間1位を獲得。人気ゲーム「Call of Duty:Mobile」TVCM出演、タイアップ曲「STORY OF DUTY」を担当するなど積極的に活動中。2020年12月には第二弾エッセイ『きみが夢にでてきたよ』を発表。

https://www.bish.tokyo/

Edited by Takuro Ueno(Rolling Stone Japan)

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