BiSHモモコグミカンパニーと遠野遥が語る「書くこと」の意味

左からBiSHのモモコグミカンパニー、遠野遥(Photo by Kana Tarumi)

BiSHのモモコグミカンパニーによる、インタビュー&エッセイ連載「モモコグミカンパニーの居残り人生教室」。9回目は作家の遠野遥氏との対談です。

こんにちは! BiSHのモモコグミカンパニーです。今回は作家の遠野遥さんとお話しさせていただきました。私自身、2冊目の本(『きみが夢にでてきたよ』)を執筆する際、「書くこと」に対して以前よりも深く向き合うことになりました。第163回芥川賞作家の遠野遥さんとBiSHのメンパーである私は、一見して別の世界にいるように思えますが、「書くこと」「見られること」という共通点から意外なお話を楽しくすることができました。

遠野:『目を合わせるということ』面白かったです。

モモコ:本当ですか!?

遠野:過不足ないというか、大げさに言ってもいないし、不足してもいない。文章がうまいなって思いました。

モモコ:ありがとうございます。以前、村田沙耶香さんとお仕事でお話ししたことがあったんですけど、村田さんの作品を読んでると作家の人間性が見えてこないというか、著者と作品が切り離されてる感じがあったんです。そのときと同じ感覚が遠野さんの『改良』『破局』を読んだときにもあって。『破局』を最初に読んだんですけど、遠野さんの人間性、心が見えない。いい意味で著者と作品が切り離されていて、これを書いたのはどういう人なんだろう?と思って。あと、私もエッセイの二作目(『きみが夢にでてきたよ』)を書いていた時期だったので、同じ世代でもある遠野さんにぜひお話しを聞きたいなと。

遠野:実際、怖い人だと思われたりすることもありますね。

モモコ:私は一作目の『目を合わせるということ』を書いた時、エッセイだからというのもあるからなのかもしれないですけど、日記の延長線上で書いてた部分があると思うんです。でも二作目を書くにあたって、自分のスタイルは何なんだろう?って考えたんですよね。遠野さんは自分のスタイルを自覚したのはいつ頃ですか?

遠野:私は大学3年生から書き始めたんですけど、その時にたぶん今の土台みたいなものは出来ていて。夏目漱石を参考にしたんですよ。

モモコ:夏目漱石ですか。

遠野:はい。夏目漱石の文章の上っ面だけ勉強した、みたいな感じで。中身はあんまりわかってないんです。

モモコ:そういう読み方があるんですね!

遠野:そう。場面を転換させる時はどうやってるのかなとか、ポイントでしか読んでなくて。ストーリーもあんまり覚えてないです。

モモコ:太宰治や芥川龍之介ではなく、夏目漱石だった。

遠野:夏目漱石が一番クセがないような。その時はそう感じられたんです。太宰治とかって結構クセあるじゃないですか。

モモコ:そうですね。「太宰治っぽい」ってなるかもしれない。

遠野:でも、夏目漱石は文章のクセがあまりないような気がして。そこから夏目漱石の作品を参考にしつつ、「ここはこうしたほうがいいだろうな」ってところだけ自分で試行錯誤していった感じです。モモコさんは、大学生活とBiSHの活動を並行していた時期があったんですよね。

モモコ:そうですね。私は器用じゃないので、大学卒業する頃にはBiSHの活動がメインで学校にバイト感覚で行くみたいな感じだったので、卒論どうしようかなと考えた結果、自分について書いたんですよ。モモコグミカンパニーについての考察みたいな。

遠野:それがすごく面白いなと思いました。

モモコ:フィールドワークも行けないから、自分を題材に書きました。そしたら結構いいものができたなって。

遠野:自分にしか書けないですもんね。

モモコ:一作目も二作目もBiSHの活動の中で感じたものを言葉にしているって感じで、そういう点で遠野さんのインプットって何かあるんですか? 普段の生活から?

遠野:そうですね。『破局』も通ってた大学の話だし。

モモコ:そうなんですね。

遠野:慶應(慶應義塾大学)に通ってたから、慶應で見た景色も出てきます。経験したことを参考にして書いてる感じはしますね。

モモコ:大学のシーンがすっごいリアルだなと思って! 自分的にめちゃくちゃ共感したところが、主人公の陽介が学園祭のお笑いライブを灯ちゃんと一緒に見るじゃないですか。でも灯ちゃんは途中で気持ち悪くなって会場を出てしまう。その原因がカフェラテっていう。飲み物の中で一番好きだと言ってもいいくらい灯ちゃんはカフェラテの味が好きなのに、なぜか気持ち悪くなってしまった。それを読んで「わかる!」と思って。

遠野:私も実際、カフェラテは気持ち悪くなる時があって。でも味好きなんですよ。灯はそれを承知で時々飲んでるんですけど、私はもう怖くなっちゃって飲めない。私に出来ないことを代わりにやってもらった感じですね(笑)

モモコ:(笑)あれ、なんなんですかね?

遠野:気持ち悪くならないカフェラテもあって。種類にもよるけど、体調にもよる。怖くて飲めないです。

モモコ:遠野さん自身の体験だったんですね。

遠野:はい(笑)。

モモコ:実は私も小説書いたことあるんです。

遠野:ほんとですか? すごく読みたいです。

モモコ:恐れ多いのですが、『目を合わせるということ』を出した後にBiSHのファンクラブ限定企画として、短編小説を書かないかという話があって。私、書けないのに! 何千文字って文字数だったので書いてみたんですけど、そのときに思ったのは、歌詞やエッセイで書いた自分の気持ちを人に読まれるのは恥ずかしい、でも小説は“自分”じゃない主人公を出しているはずなのに一番恥ずかしかったです。

遠野:ほんとですか。私は小説は全然恥ずかしくなくて、エッセイの依頼があって自分の話をってなると、途端にぎこちなくなってしまう。SNSはやってるんですけど、自分の話がまったくできない。ただひたすら意味のないことばっか言ってる(笑)。

モモコ:遠野さんのTwitter、たしかによく分からないです(笑)。小説を読んだ時と同じように、「この人はどういう人なんだろう?」と思いました。

遠野:何か意味のあることを書きたくなる時もあるんですよ。でもすぐに自分の中の別の部分からカウンターが来て、書く前に潰される。まあでも何か書きたくなるのは稀で、基本的には自分を出したくないですね。

モモコ:SNSでも出したくない……?

遠野:SNSは特に出したくないですね……。苦手ですね(笑)。

モモコ:「枕がお餅みたい」って画像付きでツイートしてましたけど、お餅みたいだなぁと共感したけど、遠野さんのことは何もわからないなって(笑)。すごい印象に残ってます、あのツイートが。



遠野:小説を書くのが仕事だから、Twitterに何かを書いて仕事した気になっちゃうとまずいなって思ってて。

モモコ:ああ~! すごいわかるかもしれないです!

遠野:作家でもTwitterを上手く使ってる人はいますけどね。自分はそんなに書いてしまったら書くことなくなってしまうんじゃないかとか、単純に時間も使うし、仕事した気になってしまうかもと思ってしまうので、枕……。

モモコ:そういう思考があっての、枕だったんですね(笑)。

遠野:そうです。考えた末の枕です。

モモコ:SNSはTwitterしかやってないんですけど、そのなかでどうやってモモコグミカンパニーを出していこうかとか、自撮り一枚でもどういう顔してイメージをつけるかとか、私も結構考えます。SNSでは自分を出さず、本性は本の中で出す感じですか?

遠野:そういうことでもないと思います。本性って難しいですよね。何が素なんですかって言うと……。

モモコ:たしかに。難しい……。

遠野:私はもう考えるのも面倒くさいと思っていて。これが素ですって決めなくてもいいかなって。

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