交換できないアイデンティティを受け入れるために―他にReiさんが社会人になって感じる配慮のなさや差別ってどんなものですか。音楽業界は男尊女卑が濃くあるという意見を女性アーティストから聞くことも多いですが、そういったことも感じられますか?Rei:うーん……女尊男卑だなと思う瞬間もよくあるんです。男の子が女の子に奢るとか、男の子は強くなきゃいけないとか。強くしなやかに生きてる女性は、女性であることを自分の弱みだけど武器だとも思ってると思うんです。価値のひとつになるときもある。これは捉え方が人それぞれで正解はないと思いますけど、私はフェミニズムというのは、「性別平等」という考え方のことだと思っていて。つまり「Gender-Equality」ですよね。そういったテーマを、エンターテイメントにして柔らかく爽やかなサウンドで包んであげることで、身近に感じて考えるきっかけになればいいなという気持ちもこの曲に込めました。
Photo by Masato Yokoyama―女性であることが価値になるときもあるというのは、共感します。でもその一方で、女性だからと舐められる場面もあって。Rei:私は女性でしかも顔もおぼこくて背も低くて……っていうところで、相手が偉そうな態度をとってきたときは、自分の技術で後ろから包丁を刺す(笑)。
―えっと、それは男性スタッフだったりミュージシャンだったり?Rei:ミュージシャンももちろんそうですよ。あと、初めて観るお客さんも。ステージに上がって「誰だ、この小さい女の子は?」って感じで見られるけど、歌を歌ったりギターを弾いたりしたときに空気が変わる瞬間があって。みんなの見る目とか態度が変わるのがわかるんですよ。それは結構気持ちいい。エクスタシーを感じるというか(笑)。
―それを自分の技術でひっくり返すって……かっこいいな!(笑)Rei:(笑)。
Photo by Masato Yokoyama―「Categorizing Me」でいうと、2番の"You don’t need anyone anyone 君がみせた一瞬のめつき”〜というラインはすごく印象深かったのですが、これはノンフィクションですか?Rei:ノンフィクションです。覚えてませんか? 字面にすると大して失礼なことではないんだけど、「この人、すごく失礼な目つきとか声色で言ったぞ」ってことを、1週間ぐらい覚えてるみたいな。
―ありますね。1週間じゃない、1年くらい覚えてることもあります(笑)。Rei:覚えてますよね。
―Reiさんのかっこよくてタフな一面だけを見て、「別に君は強いから一人で生きていけるっしょ?」って?Rei:私を褒めてくれたような場面だったんですけど、その言い方がすごく馬鹿にしたように聞こえて。言ってることはポジティブだったから、そのときに面と向かって怒って言い返すようなことではなかったんですよね。でも、そのときの、ちょっと含んだ言い方がずっと引っかかってました。ただ、そういうのって、それこそこんなことに対して事を荒立てて怒ってるのも女っぽいし、気持ち悪いなと思って言えないわけですよね……そういうところが女じゃんって思われたら腹が立ってしょうがないから言わないんだけど、でもそういう場面っていっぱいあって。そういうかすり傷みたいなものが自分の心に穴を開けていくのかなって思ったりしました。
―ネチネチ昔のことを覚えている自分に対しても、嫌になりますしね。Rei:そう。それはもう、誰しもあると思うので。だから、ちゃんと時間を設けて建設的に話せる場面を、もっと身近な人と持ちたいなという想いもありました。そういう場面のことを思い返して喧嘩するのではなく和解して、気持ちよくコミュニケーションをとっていくためにゆっくり話せたら、もっと人間関係がよくなるんじゃないかなって。そういう意味でもこの曲が誰かのきっかけになったらいいなと思っています。
Photo by Masato Yokoyama―たとえば「What Do You Want?」のミュージックビデオを再生すると、表面的なところだけを見れば、Reiさんはまるで完璧でかっこよくて憧れの対象で、自身が何者であり何を求めているかを明確にわかっている人間であるように映るけれど、決してそういう部分だけではないわけですよね。Rei:残念ながら、この皮膚だったり骨だったり血だったりを、他人のものと交換することはできないんですよね。それはすでにフィックスされてるアイデンティティで。でも、その他のことはいくら変わっても大丈夫なんじゃないのかっていうのが、今私が思っていることです。なので、もし自分の個性に悩んでる方がいたら、逆に考えると、あなたがどんなにあがいても逃れられない自分のアイデンティティがすでにあるわけで、それはすでにあなたには個性があるということだよって伝えたい。声とか、体つきとか、育ってきた環境とか、生まれた街とか、親の顔とか、そういうものは変えられないわけですよね。私自身もそれに気づいてからは、すごく自分が落ち込んで選択に迷ってるときでも、どこか安心感を持てるようになりました。一生懸命考えた結果であれば、自分の個性的な選択になるんだろうなって。