スマパンのビリー・コーガンが語る不変の音楽愛、父になって訪れた変化、日本への想い

スマッシング・パンプキンズ、左から2番目がビリー・コーガン(Courtesy of ワーナーミュージック・ジャパン)

スマッシング・パンプキンズが最新アルバム『CYR』(シール)をリリースした。中心人物のビリー・コーガンがプロデュースした今作は、2018年の前作『No Past, No Future, No Sun』に続く「Shiny and Oh So Bright」シリーズの第2弾となる。さらに現在は、『メロンコリーそして終りのない悲しみ』と『マシーナ/ザ・マシーン・オブ・ゴッド』の続編を制作中というビリーにインタビューを実施。聞き手は音楽ライターの鈴木喜之。


ブラック・サバスとABBAを融合させたい

−パンデミックで大変な年になりましたが、近頃はいかがお過ごしですか?

ビリー:1年の大半は大丈夫で、ポジティブに考えるようにして来たけど、この1カ月はかなりこたえたね。終息する様子もなく、まだ真っ只中にいることがわかってきたから。僕が住んでいるイリノイ州はロックダウン状態で、カリフォルニア州もまたロックダウンになった。だから、すごいフラストレーションだよ。一体いつ終わるんだって感じなんだもの。とらわれの身になっている気がする。

−早く終息することを願うばかりです。さて、最新作『CYR』は、エレクトロニック・サウンドが前に出て、新鮮な響きをもたらしていますね。こういう作風にチャレンジしたいという気持ちはずっとあったものの、外部からのプレッシャーなどで実現できないでいたような状況が続いていたというようなことはあったのでしょうか?

ビリー:いや、意識的にこうしたわけじゃない。むしろ、興奮させるものを追い求めていたんだよ。例えば、アルバムからの1stシングル「Cyr」は、もともとヘヴィなギター・リフで出来ていた。だから、デモでは同じリフが延々と続いている。超ヘヴィで、ブラック・サバスみたいな感じなんだ。でもそれをシンセサイザーでやってみたら、「シンセサイザーの方がエキサイティングだな」と思えた。頭で決めたことじゃない。「どうして恋に落ちるんだろう?」「どうしてあの人じゃなく、この人と恋に落ちるんだろう?」と同じことだよ。もっと感情的な反応なんだ。今回は、シンセサイザー・サウンドの方に感情的な反応を示したんだ。それは現代生活のせいかもしれないし、みんながネット社会に生きているからなのかもしれない。ただ、ビッグなギター・リフよりもそっちの方が、当時の僕の気持ちに近かったんだ。



−では、今作の曲作りを始めた際には、青写真は特に無く、オーガニックに発展して行ったんですね。

ビリー:そういうこと。でも、それには時間がかかるんだよ。取り組めば取り組むほど、僕が進んでいた方向性に対する自信がついたんだ。もちろん、それを聴いた人達はショックを受けた。「これは、思ってたのと違う」ってね。

−今作の作曲作業はギターで? それとも、キーボードや他の楽器を使ったり、コンピューターを使ったりしましたか?

ビリー:僕の曲はほとんど、アコースティック・ギターかピアノで書いている。昔から言われていることに、「アコースティック・ギターやピアノで弾いていいと思える曲は、必ず別の表現手段に置き換えることが出来る」というのがあるんだけど、僕はこれを大いに信じているんだ。

−では、曲作り自体は以前と同じだったのですね。

ビリー:そうだよ! 今回の曲を『メロンコリーそして終りのない悲しみ』の収録曲みたいにすることだって簡単にできたさ。僕が選んだプロダクションがたまたまこうだっただけで、書き方は同じだったんだ。

−アレンジのプロセスにおいて、今作はこういう方向性に進んでいったと。

ビリー:そう、そういうことなんだ。どんなものにでもなり得るよ。曲作りはコロナ禍の前に行なったんだけど、もちろんみんな不安がっていた。特にアメリカでは、ここ数年間の政治情勢のせいで、みんなすごく不安を感じていたんだ。だから、通常の生活を送ってるとしても、みんなやっぱり自分達がいかに不安であるかを語っている。



−あなたと、ジミー・チェンバレン、ジェームス・イハ、ジェフ・シュローダーという編成になって2作目ということになりますが、全曲あなたが主導しているのは変わらずとして、他のメンバーたちとはそれぞれ今回どのようなコラボレートがあったのでしょう?

ビリー:最初に作ったデモの段階では、みんなが期待する僕たちと完成した今作との中間くらいで、ギターとシンセサイザーが混在していたんだ。それからしばらく僕1人で作業して、どういう方向に進みたいかを決めた。そのプロセスの途中から、みんなが参加し始めて、プロセスの最後でも参加した。ずっとこのやり方でやって来たんだ。曲を書いて、一緒に取り組んで、それからしばらく僕1人で作業して、それからそれぞれが別々のタイミングで貢献するんだよ。

−ジミーは、ヘヴィでパワフルなロック・ドラマーとして高く評価されていて、そういうイメージも強いのですが、今回のアルバムを聴くと、エレクトリックでライトなドラム・サウンドとの組み合わせも非常に良いということに改めて気づかされました。彼は今作のドラムに対し、どのようにアプローチしていったのですか?

ビリー:ジミーは常に曲をサポートしたいと思っているので、今作ではよりシンプルなドラムを叩いた方がうまく行くことに気がついたんだろう。彼にとってこれは、よりシンプルなアプローチで、ビート主導のアプローチなんだ。

−もうひとつ、アルバムを通して非常に印象的なのが、ケイティ・コールとシエラ・スワンによるバック・ヴォーカルです。女声コーラスに関するアイデアは、どのようにして思いついたのですか?

ビリー:ケイティはこの4年間いっしょに何度もツアーしてきたし、シエラとは15年来のつきあいだ。彼女もまた僕たちとツアーしてきた。だから、ライブで彼女たちが歌うのを聞いて、そのフィーリングが音楽に欠けていることに僕は気がついたんだろう。それで今作に取りかかると、このアルバムをエモーショナルなものにするためにはヴォーカルをさらに加えたらいいんじゃないかと思ったんだ。そこでケイティに連絡して、ヴォーカル・アレンジを頼んだんだ。彼女は素晴らしい仕事をしてくれたよ。そして、ナッシュヴィルで1週間かけて3人でアルバムのバッキング・ヴォーカルをやったんだ。

−では、そのアイデアは、曲作りを終えてから思いついたのですか?

ビリー:最初から頭の片隅に、アイデアとしてあったんだと思う。ちょっと変に聞こえるかもしれないけど、僕はかつて「ブラック・サバスとABBAを融合させたい」と言った。そんなのやったことのある人、いないよね。これを想像すれば、「Cyr」でその組み合わせが聞けることがわかると思う。ヘヴィなリフで、今回はギターではなくシンセだけど、あのリフがギターだと想像すれば、僕が言っているブラック・サバス+ABBAにかなり迫ったものになっていたはずだ。

Translated by Mariko Kawahara

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