映画『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』公開から50年、ストーンズのアメリカ制覇の手法を読み解く

『〜ギミー・シェルター』にはフライング・ブリトー・ブラザーズとジェファーソン・エアプレインのグルーヴィーなライブ映像が収録されている(サンタナとCSNYも出演していて、若かりし頃のジョージ・ルーカスが撮影クルーの一員だった)。エアプレインのセットの序盤でヴォーカリストのマーティー・バリンに数人が襲いかかり、完全にノックアウトされた。「愛し合うのでなければ身体に触れないようにして」と、放心状態のグレイス・スリックが言い、エンジェルズとファンの両方を責めた。「今のあなたたち、両方とも狂ってる」と(これは“偽りのバランス”の初期の声明で、あの当時この概念があれば、スリックのこの声明がニューヨーク・タイムズ紙のトップニュースの補足記事に掲載されていたかもしれない)。

この映画を映画館で見る機会に恵まれたなら、恐怖の中でも大爆笑必至のシーンが一つを楽しんでほしい。そう、あの犬だ。ストーンズが「悪魔を憐れむ歌」を演奏中、観客席では武力衝突が激しくなっていくのだが、突然一匹のジャーマン・シェパードがステージに登場し、ストーンズの前を横切る。ミック、ご愁傷さま。このステージで一つの宇宙を作り上げようとがんばって、ロシア革命的なレベルまで到達しかけた瞬間、一匹のジャーマン・シェパードが登場したことで、すべてがモンティ・パイソンのスケッチと化したのである。



1969年のカリフォルニアの悪夢を描いた映画に出演したこの犬は、オールタイム最優秀犬優賞を受賞した記録を何年間もキープしていた。しかし、去年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に出演したブラッド・ピットの相棒ブランディにその座を奪われてしまった。こうなったらクエンティン・タランティーノが彼の『〜ギミー・シェルター』を作るべきだ。ラタンティーノは史実と真逆のファンタジーを描く天賦の才能に恵まれているから、タランティーノ版オルタモントでは、きっとキース・リチャーズがギターを火炎放射器にトランスフォームさせて、「フライド・ザワークラウト注文するやつ、いる?」と叫んで、土壇場で勝利を収めることだろう。

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『〜ギミー・シェルター』に戻ろう。この作品で魅力的な登場人物の一人が、ストーンズの東海岸の弁護士メルヴィン・ベリーだろう。彼の電話のシーンと記者会見のシーンはこの作品の中でも一番愉快だ。フェスティバルの音楽があまりにも酷い(pain in the ass)との苦情に対し、ベリーは「(assに応えて)私は肛門医にはなれない。私にできる範囲でどうしてほしいかを言ってくれ」と返答する。ベリーはパブリシティ大好きの目立ちたがり屋で、『スタートレック』にも一度登場したことがある(シーズン3「悪魔の弟子達」で悪役Gorganとして登場)。常に自分は悪徳弁護士(訳注:英語では“救急車を追いかける人”という)ではないと主張し、「だって私は救急車よりも先に病院に到着するからね」と言っていた。

Translated by Miki Nakayama

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