全米のセックスワーカーを敵に回した18歳女性の「嘘」

セックスワーカーへの偏見を利用して作り上げた「虚像」

ローリングストーン誌が取材したセックスワーカーの大半は、この主張の信ぴょう性について真向から反対している。もし本当なら、性的人身売買にあたるというのだ(Imperial自身はTikTokの中であからさまに「人身売買」と言う言葉は使っていない)。売春に反対する活動家は同意の上でのセックスと人身売買をごっちゃにする傾向にあるが、悲しいかな、若い女性が搾取的あるいは暴力的なパートナーに騙されて売春するというケースがないわけではない。とはいえ、Imperialの他の動画と照らし合わせれば、Imperialが自分の信用をこれ以上問われないよう、世間の目をそらすためにこの話をでっちあげたのでは、というのがローリングスト―ン誌が取材したセックスワーカーたちの考えだ。メキシコで実際に人身売買の被害に遭った友人がいるというルナさんも、Imperialの話を信じていない。Imperialがこうした話をでっちあげたとして、ことのほか怒りをあらわにしている。「性的人身売買は日々起きています。こんな嘘をつくべきじゃありません」

「本人が言うようにダンスを強制された、あるいは売春させられたのなら、とても危険な状況です。彼女には助けが必要です」とガンさんも言う。だがもしこれが嘘なら、「ソーシャルメディアがセックスワーカーに対してひどい仕打ちをしている時に、彼女は私のコミュニティにさらに悪質な害をもたらしていることになります」

残念ながら、これが大勢のダンサーたちがImperialに怒りを向けている最たる理由だ。インターネット上で身分を偽ったり誇張したりするのは珍しくもなんともないが、彼女の場合は、よく言えばセックスワーカーに対して抑圧的、悪く言えば悪意をむき出しにするエコシステムでとんでもない地位を勝ち得てしまったのだ。

TwitterやInstagramといったソーシャルメディアは、職業故にセックスワーカーらを裏で排除していると非難されているが、TikTokの場合も、合法的か否か、コミュニティガイドラインに違反しているか否かに関わらず、売春に言及したコンテンツを検閲していると批判されている。ローリングストーン誌が取材したセックスワーカーの大半が、「ストリッパー」という言葉を使ったとか仕事用の靴を披露したとか、ありとあらゆる理由で一度ならずやTikTokから動画を削除されたことがある、と語った。セックスワーカーたちはTikTokの検閲を逃れるために、動画やユーザーネームでsexやstripperの綴りをわざと間違えて投稿している。「自分たちの仕事を当たり前の仕事と見なしてもらおうと努力している私たちは、セックスワーカーであるがゆえにTikTokやInstagramから検閲を受けているのに、アダルト業界について嘘をついているような人が、大勢の未成年者から絶対的支持を得ているなんて」とガンさんも言う。(TikTokの代表者はローリングストーン誌の取材に対し、セックスワーカーが検閲されているのは動画の中でこれらの単語を使ったからではない、と述べた。ただし、同アプリのコミュニティガイドラインは「性的勧誘を確約、宣伝、美化するコンテンツ」を禁じている)。

Imperialと個人的に関りのあった人々は戸惑い、彼女がインターネットで築き上げた人物像にいら立ちを隠せずにいる。ダニエラさんはImperialとはもう連絡を取り合っていないが、もしまだつながっていたら開口一番、なぜあんな嘘をつくの?と質問するつもりだ。「彼女はメイクの腕もぴかいちの、本当に素晴らしい人間です」とダニエラさん。「人生で他にもやれることはたくさんあったはずなのに。プラス思考を持てば、メイク動画だって作れたのに。でも彼女はそうする代わりに、自分ではない別人になろうとした。その結果自分が作り上げた人物像に囚われて、それに呑み込まれてしまったんです」

from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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