ジョン・レノンの死から40年、生前最後のロングインタビュー完全翻訳

ーあなたの作品は一貫して、自分らしくあれ、そして力を合わせて改革して行こう、という人々に対する強いメッセージが感じられます。「Give Peace a Chance」、「Power to the People」、「Happy Xmas (War Is Over)」などはその代表格だと思います。

まだある。新しいレコードのロゴ周りのレコード盤を見ると(編集註:「(Just Like) Starting Over」の12シングル)、ブラジル、オーストラリア、ポーランドなど世界中の子どもたちが集まり、中心にはひとつの世界、ひとつの人々が描かれている。僕らは続ける。「Give Peace a Chance」は決して「Shoot People for Peace」ではない。「All You Need is Love」もかなりハードルは高いが、僕は絶対的に信じている。

「国境のない世界を想像してみよう」や「平和を我等に」などと言ったのは僕らが初めてではない。でも僕らが先頭に立って、オリンピックの聖火リレーのように人々の手から手へ、国から国へ、世代を越えて繋がっている。これが僕らに課された使命なんだ。誰かに敷かれたレールに沿って生きるのでない。金持ちになるか貧乏か、幸せか不幸か、笑っているかしかめっ面をしているか、カッコいいジーンズを履こうがどんな格好をしようが、生き方は自分次第だ。

神のこころを説いているのではないし、ピュアな精神を勧めてきた訳でもない。ましてや人生に対する答えを与えてきた訳でもない。僕はただ曲を作り、聞かれたことにできるだけ丁寧に答えているだけだ。ただ誠実に対応しているだけで、それ以上でもそれ以下でもない。僕に対する周囲からの期待に応えるために生きることなどできない。それらはただの幻想だからね。僕がハンブルクやリヴァプールでパンクロッカーになるには、歳を取り過ぎている。今はさまざまな目を通して世界を見ている。でも若い頃と変わらず平和と愛と相互理解を信じている。エルヴィス・コステロも歌っているように、平和や愛や相互理解の何が悪い? やり手となって汝の隣人を十字架で打つなどというのがもてはやされる時代かもしれないが、僕らは流行を追うような人間ではないからね。

ー私はあなたの楽曲の中で「The Word」も好きです。

その言葉は「愛」だった、だね。

ー「Instant Karma」で「Why in the world are we here?/Surely not to live in pain and fear」と歌っています。これは、あなたとヨーコの作品全てに通じる考え方だと思います。ヨーコの新曲「Beautiful Boys」で彼女は「Please never be afraid to cry. . . . Don’t ever be afraid to fly. . . . Don’t be afraid to be afraid」と歌っています。とても素晴らしいと思いました。

美しい曲だ。僕は心配性だが、恐れることを恐れない。そうでなければ何でもかんでも怖くて仕方がないからね。自分らしさを殺そうとすることの方が辛いからね。人は一所懸命に他人を真似ようとしている。それは癌とかとんでもない病気につながると思う。ジョン・ウェインやスティーヴ・マックイーンらタフガイの多くが癌で亡くなっていることを知っているかい? 専門家ではないからよくわからないが、ある幻想やイメージに囚われ、自分の中の一部分を抑圧して生きることと病気とは、何らかの関係があると思う。抑圧する対象が自分の弱々しさの部分であったとしてもだ。

マッチョで虚構の学校出身の僕には、それがよくわかる。僕は不良少年でもタフガイでもなかった。テディーボーイのような格好をして、マーロン・ブランドやエルヴィス・プレスリーの真似をしていたが、リアルなストリートファイトや昔ながらのギャングにはならなかった。ロッカーを気取ったただの都会っ子だったんだ。しかしタフに見せようと一所懸命だった。少年時代は肩を精一杯怒らせて眼鏡を外して歩いた。眼鏡をしていると何だか女々しく見える感じがしたからね。内心ビクビクしていたんだけれど、できるだけ怖そうな顔を作っていた。見た目だけで喧嘩を売られることもあったが、自分としてはタフなジェームズ・ディーンのようになりたかったんだ。そんな態度を止めるのにはかなり葛藤もあったし、不安を感じたりナーバスになった時にはまた元に戻ってしまうこともある。「俺は不良少年だ」的な気分になった時には、本来の自分はそんなではないと自分に言い聞かせている。

これはヨーコに教えてもらったんだ。僕ひとりでは対処できなかっただろう。僕を諭すには女性の力が必要だったんだ。つまりそういうことさ。ヨーコはいつも「大丈夫、大丈夫」と言ってくれた。自分の昔の写真を見ると、マーロン・ブランド的な面と、優しく女性的な性格を持つオスカー・ワイルドのような繊細な詩人の一面とで迷っていたことがわかる。迷いながらも、いつもマッチョな方を選択していた。女々しい部分を見せたら終わりだと思っていたんだ。

ー何が真実で何が偽りかと常に問い続けているあなたのやり方と関係しているのだと思いますが、あなたの作品には別の一面も見られます。例えば「Look at Me」や新曲の「Watching the Wheels」などで、「Strawberry Fields Forever」では「Nothing is real」と歌っています。

言葉を分解してみると「no thing is real」となり、つまりリアルなものなどない、ということにもなる。ヒンズー教や仏教で言うところの「イリュージョン」さ。羅生門だ。我々は分かっていながら錯覚の世界に生きている。その中で自分自身に向き合うのが一番難しい。

かつて世界は自分のために回っていると思っていたし、自分も世界の役に立っていると思っていた。保守主義者も社会主義者も、ファシストも共産主義者も、キリスト教徒もユダヤ教徒も自分に何らかの影響を与えていると思っていた。ティーンエイジャーにありがちな考え方だ。僕も40になって、そんな考え方はもうしない。意味がないとわかったからね。何があっても物事は進むし、自己満足に耽るのみ。そして自分の両親の行為を見て愕然とする。誰もが通る道だ。わざわざそんな道を通りたがるような人間のほとんどは、何もかもあるがまま受け入れて上手くやっている。しかし今起きていることに疑問を投げかけるような人はほとんどいない。僕は気づいたんだ。僕は自分自身にも他人に対しても責任があるということにね。僕も彼らと同類なんだ。区別はない。僕らは皆ひとつだ。その意味で僕は思うんだ。「僕もまたあんな風に振舞わなければならないのか。何がリアルなのか。我々の生きている幻はいったい何だろうか」とね。僕は日々対応しなければならない。タマネギの皮のようなものさ。

ー「Looking through a glass onion(訳註:ビートルズの曲「Glass Onion」の歌詞)」ですね。

正にそうだろう?

ここでヨーコが部屋に入ってきて、レコード・プラント・スタジオへ行く時間だと告げた。レコード・プラントはニューヨークのウエスト44番街にあった伝説のスタジオで、『Electric Ladyland(ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス)』や『Born to Run(ブルース・スプリングスティーン )』などの作品がレコーディングされた場所だった。ジョンとヨーコはここ数週間、ヨーコの過去の作品のリミックスと彼女のニューシングル「Walking on Thin Ice」の仕上げにかかっていた。彼らは夜を徹して作業するつもりだったし、同行しない手はなかった。我々がダコタ・ハウスを出て迎えの車に乗り込んだ時、既に午後10時頃だった。30分ほどでスタジオに到着してメインスタジオへ入ると、我々は大音量に迎えられた。スピーカーからは誰にも真似できないヨーコの独特の声が溢れ出し、ジョンのギターが絡む。さらにヨーコが「Open your box/Open your trousers/Open your thighs/Open your legs. . . . Open your ears/Open your nose/Open, open, open, open」とシャウトする。その後6時間以上かけて、2人のエンジニアとプロデューサーのジャック・ダグラスはヨーコの作品を何曲か(「Open Your Box」、「Kiss Kiss Kiss」、「Every Man Has a Woman Who Loves Him」)リミックスした。その間ジョンと私は朝の4時までインタビューを続けたが、ヨーコはスタジオのソファで寝ていた。

ーヨーコはディスコ・アルバムを出すつもりなのでしょうか?

今やっていることがどうなっていくのか、まだはっきり言えない。ヨーコとの共同作業だからね。終わるまで誰もどうなるかわからない。でも僕らは確かにここで何曲か作っていて、最終的にはロックやディスコに仕上がるだろう。

ーあなた自身の新曲はどうでしょうか?

答えられないね。作っていないから(笑)。どうやってカムバックしたらいいのかわからなかったが、できる限りシンプルに、そして実験的な要素は排除しながら理想的な形で戻れたと思う。昔と同じようなやり方でできた方が嬉しいからね。「Starting Over」は、「エルヴィス=オービソン」と僕は呼んでいる。(ここでジョンは「Only the lonely/Know why I cry/Only the lonely」と、ロイ・オービソンの曲を口ずさんだ。)

Translated by Smokva Tokyo

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