斉藤壮馬が語る新章 エモと『おジャ魔女どれみ』が共存する音楽の沼

斉藤壮馬(Photo by Masato Moriyama, Styling by Yuuki Honda, Hair and Make-up by Shizuka Norimoto)

2020年は6月、8月、9月にかけて「in bloom」シリーズと銘打ち、3曲連続で配信リリースを敢行した斉藤壮馬。

数多くのアニメ・ゲーム作品に出演する声優業のかたわら、音楽活動も3周年を迎えた。新章を高らかに告げた「ペトリコール」「Summerholic!」「パレット」の3曲とともに、斉藤は音楽家としてどこに向かおうとしているのか? 

※この記事は2020年9月25日発売「Rolling Stone Japan vol.12」に掲載されたものです。

「in bloom」シリーズのテーマに込めた想い

ー6月で音楽デビュー3周年。2020年はアーティストとして節目になる年でもあったと思うんですけど、当初思い描いていた2020年の姿と、このコロナ禍でいま自分が置かれている状況というのはまったく違うものですか?

斉藤:意外とそこまで違わないかもしれないです。元々ライブというよりは作品のリリースが中心の活動でしたし、今回連続でリリースする3曲も諸般の事情で配信になりましたが、コロナが無ければ3周年に合わせてシングルという形で出そうと思っていたんです。僕自身も在宅の時間が増えたりしたので、デモのストックが実は今すごくあって。どういった形で発表できるか分かりませんが、面白い音楽をお届けするために着々と準備をしつつ、こうやってシングルを3曲リリースさせていただいているので、自分としてはありがたいです。

ー外的な出来事に作用されるというより、自分で定めた道を一歩一歩進んでいるような感覚ですかね。

斉藤:昔から趣味で曲を書いてた身からすると、自分で書いた曲を世に出せるというだけでもありがたいことなんです。だからこの状況に対してアーティストとして何かもどかしさみたいなものを感じるというよりは、むしろこんなアイデアも思いついたけどどうやって使おうかみたいな考え方が、いま自分のベースになってるという感じですかね。

ー前作のEPのインタビューの時、「第2期だと思って作っていたら、第1.5期だった」「今までやってきたことを突き詰めるとどうなるのか?という検証が、これで終わった」と話してくれましたが、これらのシングル3曲はまさに斉藤壮馬の第2期と呼んでもいいのではないでしょうか。

斉藤:3曲には「in bloom」というシリーズ名を冠してるんですが、テーマは”季節の移ろいと世界の終わりのその先”なんです。世界の終わりに対する視点の違いを歌うのではなく、世界の終わりのその先がどうなったのかを描こうと思いました。3曲の中では「ペトリコール」が一番最初に完成して、これは絶対6月に出したかった。で、そこから連続で配信リリースするのであれば、梅雨・夏真っ盛り・夏と秋の間、みたいなタイミングに出せるなと。もともと曖昧な季節が好きだったこともあって、これは何かできるかもということで一つ創作の芽が生まれて。それと同時期に太宰治を読んでたんですけど、太宰の短編に『ろまん燈籠』という短編があるんです。兄弟でリレー小説を書いていく話で、あるキャラクターが「お姫様と王子様が結ばれて、ハッピーエンドめでたしめでたしとみんな言うが、本当に知りたいのはその先どうなったってことじゃないのか」みたいなことを言っていて。あ、これだと。

そういう意味で言うと、今回の3曲はすごく個人的な曲だと思います。個人というのは僕個人のことではないですが、狭い範囲の内省的な曲っていう感じじゃないですかね。今までだったら「memento」とかが分かりやすいけど、世界全体の終わりみたいなモチーフが結構多かったんです。今回は「ペトリコール」と「Summerholic!」だけでなく、「パレット」も主観的な曲というか、世界全体がどうなってるかということにはあまり関係ない3曲なのかなと。

ー「ペトリコール」がきっかけとして大きかったんですね。



斉藤:声優で歌活動をされている方があまりやっていなさそうな曲をやろうと思ったのと、ヒップホップ的なトラックにジャズのニュアンスを入れて、割とトレンドを意識した感じの音作りをしてみました。不協和音も入ってるけど、歌として聴くと日本のポップスっぽく聴こえるみたいな。うれしかったのは、この曲を聴いて「耳馴染みがいいね」って言ってくださった方もたくさんいたし、音楽好きの方からは「珍しいことやってるね」とか「イントロのサックスのリフが不協和音になってるね」みたいに言われたりして、そういうのも音楽の面白いところだなと思いました。今回の3曲ともそうなんですけど、細部に意識を向けなければラクに聴き流せて、よくよく考え始めると沼にはまるみたいな感じになればいいなと思って作ったんです。その要素が特に強いのは「ペトリコール」ですね。

【写真ギャラリー】「沼」に誘う斉藤壮馬、表情と手に注目

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