斉藤壮馬が語る新章 エモと『おジャ魔女どれみ』が共存する音楽の沼

「ペトリコール」で切り拓いた新境地

ー「沼にはまる」っていうのは確かにそうですね。それだけ練り込んで作られてる3曲というか、その背後には膨大なボツ曲たちがあるんだろうなぁと思いました。「ペトリコール」ではCRCK/LCKSの越智(俊介)さんがベースを担当されたりとか、藤田(淳之介:TRI4TH)さんのサックスもそうですけど、今っぽいジャズ的なアプローチが施されている曲ですよね。

斉藤:そうですね。

ーこういうテイストって、これまでの斉藤さんの曲にはなかったと思うけど、ちゃんと自分のものにされてますね。

斉藤:この曲、デモを作っていた時はエリオット・スミスっぽい感じで、サビのハーモニーというか、コーラスワークにその残り香があるんですけど、もうちょっと枯れていて、どっちかと言うと少し暗いイメージの曲だったんです。“灰色の雨街”っていうところも”嘘をついてしまったよ”っていう歌詞で。だけど藤田さんのサックスが入ってだいぶ明るい印象になりました。曲の後半の方で絶妙なトーンで鳴らしていただいて、そうそうこの妖しさが好きなんだよなあ~と思ったりして(笑)。「ペトリコール」は各プレイヤーの皆さんの歌心が聴けて、越智さんは以前ライブでもベースを弾いてくださって、めちゃくちゃグルーヴのあるベースだなぁと思っていたのでご一緒できてうれしかったです。



ー“狂い咲くような 6月のフレイバー いつまでも かげろうの中”という歌詞がありますけど、言葉とサウンドのバランスも面白いなと。

斉藤:「ペトリコール」の歌詞って、それがどういう状態なのかは一見分からないですからね。聴き手は想像するしかないから、歌われてる情景が現実かどうかもよく分からない。2番以降の展開が自分的には面白いと思っていて。“狂い咲くような~”のくだりでいきなり曲の雰囲気が変わりますが、イメージ的には井上陽水さん的な方向性なんです。そこだけ歌い方も変えてるんですよ、若干太めの声にしてて。それはユーモアというか。ご機嫌になってくると、急に声色を変えて歌い出したりする人っていますよね。そういう感じもあって、「ペトリコール」って結構怖い曲だなと思います。



今回の3曲は主観的だから、歌詞に出てくる本人たちは楽しかったりうれしかったりという状況だけど、周りから見たらどうなんだろうっていう。信用できない語り手みたいな部分は残しておきたかったのかもしれないですね。それこそスピッツさんの曲が、聴き心地はすごく爽やかだけど、実は裏の読み方ができる……みたいなのに近いというか。曲調はポップなのに歌詞はそうじゃない。セックスと死がテーマだみたいな。そういう面白味を感じていただけたらうれしいです。

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