ダーティ・ループスと亀田誠治が語る、「誰とも似ていない音楽」を作り出すための信念

 
高い山の頂上を目指すような感覚があった『Phoenix』の制作

―今作『Phoenix』は、あれから6年ぶりの新作となりますが、亀田さんはどう思いましたか?

亀田:僕は毎日Spotifyを使って世界中の音楽を聴き漁っているのですが、それで最近思うのは、どの音楽も均一化しつつあるなということ。みんなパソコンを使って同じソフト音源で音楽を作っているし、「サブスクリプションでたくさん再生されるためにはどうしたらいいか?」を意識しているわけじゃないですか。そうすると、どの曲もイントロがなかったり、3分くらいの尺だったり、同じようなフォーマットにどんどんなっていかざるを得ないわけです。

そんな中、リリースされた今作『Phoenix』には、そういう「サブスク対応」の曲が一つも入っていない。しかも、ものすごくパワフルで、ドラムのフレーズ一つとっても「ああ、これはアーロンの音だな」と思うし、ベースもボーカルも同じようにヘンリックやジョナにしか表現できないものになっている。そういう、「演奏している人の顔が見える音楽」を久しぶりに浴びることができたなと思いました。

ジョナ:わお!



亀田:この6年間に、それこそストリーミングサービスの普及も含めて「音楽のあり方」が大きく変化してきた中、3人がアーティストとして進化し続けてきたことがわかる。その一方で、世の中の流れに全く左右されていない「ブレないモチベーション」「3人のアイデンティティ」をも強く感じさせてくれるというか。「そうだよな、僕もバンドをやり始めた時は、こんなマインドで音を出していたし、誰にも似ていない音楽を作りたかったんだよな」みたいなことまで思い出させてくれるアルバムでしたね。

アーロン:めちゃくちゃ嬉しい……。

ヘンリック:ありがとうございます。


アーロン・メルガルド(Dr)

―アルバムのリリースにあたり、公式サイトに寄せたバンドのコメントには「この6年間、楽曲を創り出す全く新しい方法を学んで、それがすべてこのEPに詰め込まれている」とありましたが、具体的にはどのような方法を学んだのでしょうか。

ヘンリック:まずファーストアルバム『Loopified』を完成させて以降、あの作品に匹敵するくらい新しい音楽を作るために、僕たちには時間が必要でした。

ジョナ:前作がすごく売れただけに、あのアルバムを超えるものを作ることはまるで、高い山の頂上を目指すような感覚があって。しばらくは、どういう作品を作ればいいのかわからず答えも出なかったんですよね。

ヘンリック:様々な試行錯誤を重ねていく中で、今までよりも尺の長い曲を書いたり、インストやソロの部分をより長く演奏したり。エンディングの部分には、それまでの展開とは全く違うセクションを加えてみるなど、今までになかった新しい試みを、どの曲にも取り入れていきました。

アーロン:とにかく、曲作りからアレンジ、レコーディングまで全ての過程において「これまで以上のものを作ろう」という強い気持ちで臨んでいたし、それは自分たちにとって「最高の喜び」でもあったんです。

ジョナ:まずは自分たちが、誰よりも楽しめる作品を作ること。そうすれば聴いてくれた人も楽しんでくれるはず、という信念のもと制作に取り組んでいました。

亀田:すごくよくわかる。3人が自分たちの方向性に納得し、楽しんで演奏していることが本当によく伝わってくるアルバムだと思いました。6年間のインターバルでしょう? 本当に妥協していないのだろうなと。これ、もうスティーリー・ダン並みのこだわりですよ。

ヘンリック:はははは(笑)。そう言ってもらえて、6年費やした甲斐があります。

亀田:しかも、それを許容してくれるスタッフがいること、そういう環境を作り上げていること……もしかしたら、王立音楽アカデミーが存在するようなスウェーデンならではの土壌なのかもしれないけど、とにかくいろいろなことに僕は感動しました。これからの音楽や、音楽教育のあり方へのヒントまで、このアルバムには詰まっているような気がしますね。

Edited by Aiko Iijima

 
 
 
 

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