ジェイコブ・コリアーが語る、音楽家が新しい世界に飛び出すための方法論

今日のテクノロジーがあれば、人は一つになって音楽を作れる

―ロックダウンの期間は練習や研究、実験をする時間にもなったのでは?

ジェイコブ:そうだね、再び本来の意味で音楽を作ることが出来たのは良いことだった。ある段階まで行くと、音楽を仕事としてやることになってしまう。ツアーをして、ステージで演奏して……でもアルバムの完成後は、仕事というのを抜きに、ただ楽器を演奏して実験する時間が持てているよ。それって僕が世界で一番好きなことだったのに、ここ何年もやれていなかったんだ。

―この期間に何か新しくマスターしたことはありますか?

ジェイコブ:ひとつはサウンドを作ることーーミックスしてプロデュースすることーーに関して、上達したんじゃないかな。それは『Djesse Vol.3』にも反映されているはず。これまでは実際のサウンドよりも音楽(music)に意識が行ってたけど、今回は音楽の中のサウンドということを考えた。つまり音楽をinternalize(内在化)し、「このサウンドをどう感じさせたいか」「このサウンドはどこに配置されたいのか」というようにね。要するに、“サウンドが作る宇宙全体”に関心が向くようになった。もうひとつは演奏自体をする時間が増えたこと。特にドラムとベースとピアノ。これまでは曲を書いている時、「ちょっとベースで試してみよう、ここはピアノで試してみよう」という風に「ついでに」弾くものだった。でも今は、ちゃんと一つの楽器に向かい、好きなレコードに合わせて弾いたり録音したり……それが演奏の上達につながったと思う。うまくなるには、継続的にやらなきゃダメだってことだね。

―リモートでのライブをいくつかやっていましたね。まだ不十分なテクノロジーを使って、試行錯誤しながら、リアルタイムの遠隔セッションを試みた理由を教えてください。

ジェイコブ:いま、やりたくてもやれないことの一つが、他のミュージシャンとのジャムセッションだ。クリス・マーティン(コールドプレイ)、ダニエル・シーザー、トリー・ケリー、JoJoなどとセッションを行なったけど、イージーではなかった。まずは何より、物理的に離れていることの違和感だよね。もう一つの問題はインターネット上で通信のレイテンシ(遅延時間)が0.5〜1秒くらい発生してしまうこと。そこでセッション中は、僕が頭の中で誤差を修復しながら、つまり常に0.5〜1秒の“未来で”演奏するようにしたんだ。つまり、相手が僕のちょっと後、もしくは前から入ってくると想定し、オーディエンスから聴いてシンクロした状態にするんだよ。


インスタライブで実現したクリス・マーティンとの共演。ジェイコブはピアノも演奏。


―それはすごい(笑)。

ジェイコブ:今日のテクノロジーをもってすれば、人は即座に一つになって音楽を作れる。たとえ何千キロ離れていようと。『Djesse Vol.3』のコラボレーションの多くもリモートで行った。例えばタイ・ダラー・サイン、マヘリアとの「All I Need」もそう。タイ・ダラーはLA、マヘリアはロンドンからーー彼女は僕の家からそう遠くはないんだけどーートラックを送ってくれて、それを僕の自宅のこの部屋でミックスした。

キアナ・レデとの「In Too Deep」の場合は、LAのキアナの家に録音用のマイクを送り、彼女のコンピューターにあるプログラムをインストールして、リモートデスクトップで遠隔操作できるようにした。録音は僕も彼女もクリック一つでリアルタイムで行なえて、それが僕のスピーカーから聞こえる。実際は何マイルも離れているのに、まるで彼女がすぐ隣にいるみたいに一緒にセッションを行ない、音楽を作れるんだからすごいことだよね。これまでもオーケストラ、ロックギタリスト、R&Bシンガー、クワイアなどとやって来たけど、このアルバムは世界中のアーティストとリモートでもこれだけやれるんだってことが証明出来た一作になったね。


2020年5月、TV番組「Jimmy Kimmel Live」で披露された「All I Need」のリモート・パフォーマンス。ジェイコブは自宅のバスルームで演奏、タイ・ダラー・サインとマヘリアが鏡越しに共演。

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