全米UFOカルチャーDEEP案内【長文ルポ】

2019年9月20日、米ネバダ州レイチェルで開催された「Alienstock Festival」にて。参加者の女性たち。(Photo by Mario Tama/Getty Images)

パンデミック前の2019年9月、米ラスベガスの150マイル(約240キロ)北にある停止信号が皆無のレイチェルとハイコという町には、何万という数の人々が訪れる予定だった。

地図上で目視不可能なその小さな町は、軍によって厳重に警備されているエリア51の最寄りの居住地区だ。噂だが、同エリアの格納庫には重力をエネルギーとして宇宙空間を行き来する飛行体が隠されているらしい。あるロックスターによれば、その飛行体が通過するワームホールは、宇宙人とアルゼンチンに亡命したナチスの科学者たちが生み出した技術の産物だという。果たして一体そのエリアで何が行われたのか? これは未確認飛行物体に取り憑かれた者たちのドキュメンタリーである。

砂漠で開催されたエイリアンフェス

ハイコに到着すると、そこに予想したような賑わいはなく、日光浴を楽しんでいるかのようにパトカーが何台か停まっているだけだ。ベースキャンプに入った筆者は、元MMAのカリスマで現在はドキュメンタリー制作を生業としているジェレミー・ケニオン・ロックヤー・コーベル(ファンからはUFO研究家と見なされ、ヘイターからは「クソみたいに長い名前の男」と呼ばれている)の姿を探す。

この狂騒の発端はコーベルだと言っていい。彼は最近、UFOカルチャーを忌み嫌う人々に挑むかのようなドキュメンタリー『ボブ・ラザー: エリア51と空飛ぶ円盤』を公開した。80年代前半にエリア51で物理学者として勤務していた主人公は、施設内に謎の飛行体9機が格納されていたと主張している。1989年に行われたボブ・ラザーのインタビューによって、エリア51という名前は広く知られるようになった。しかし残念なことに、マサチューセッツ工科大学とカリフォルニア工科大学で学んだという経歴を両大学が否定するなど、彼の主張には一貫性が欠けていたため、世間は彼を嘘つきと見なしがちだった。ちなみに、ラザーは過去に売春斡旋の罪で逮捕されている。

ラザーはしばらく表舞台から姿を消していたが、2019年にNetflixで公開されたコーベルによるドキュメンタリーは話題になり、文字通り賛否両論を呼んだ(あるユーザーはこうコメントしている。「悪寒が止まらなかった」)。

ドキュメンタリーの公開後、コーベルは消極的なラザーを説得し、ジョー・ローガンの大人気ポッドキャストにゲスト出演させた。同エピソードは何百万もの人々が聴き、その1人だったベーカーズフィールド在住のマッティ・ロバーツといういたずらっ子は、「エリア51に突撃:奴らは僕らを止められない」と題されたFacebookミームを生み出した。その後1週間で、彼のフォロワーは100万人増加した。ロバーツは宇宙人愛好家たちに呼びかけ、9月20日にエリア51の基地に押しかけて、そこに何が隠されているのかを突き止めようと提案した。

その後に起きた出来事はまさに悲劇だった。ロバーツは基地の近くにあるハンバーガー店兼モーテルのLittle A’Le’Innのオーナー、コニー・ウエストと共同でイベント「Alienstock Festival」の開催を企画した。するとそれに対抗する別のイベントが、『スター・ウォーズ』の弁当箱やエイリアンの「糞」を販売しているハイコのネバダ・エイリアン・リサーチ・センターで行われることになった。


1996年2月13日、米ネバダ州レイチェルにあるUFOバー「A ‘LE’ INN BAR」外観。現在もモーテル/レストランを兼ね備えた施設として営業中。エリア51に引き寄せられたUFOウォッチャーと地元住民の生活の中心地でもある。(Photo by James Aylott/Getty Images)

トイレもなく、近所に病院もない場所に大勢の人々が集うことに恐怖感を覚えたロバーツは、イベントの開催1週間前に身を引いた。その理由として、「Fyre Festivalの二の舞はご免だった」と彼は語っている。予定通り決行されるその2つのイベントにどれだけの人が集まるのか、誰も予想できなかった。

コーベルが参加を表明したため、筆者もハイコを訪れた。車から出て5分もしないうちに、男か女か分からない3体の小柄な緑色の生物と、E.T.のマスクを被った穏やかな老人を見かけた。ちなみに後者は「宇宙人の権利保護」を訴える署名活動をしており、筆者は以降36時間で8回声をかけられた。

コーベルは筆者の手を強く握り、やたら大きいブルーの瞳孔を輝かせながら微笑んだ。22世紀からやって来たかのような、背が低めで顔の毛が濃いコーベルは、Swingersを思わせるグリーンのフェルトのハットを被っている。「来てくれてうれしいよ。楽しくなりそうだ」。彼はそう話す。彼の電話は鳴りっぱなしだ。彼は電話口で、深夜0時にプレイすることになっているEDM界のスター、ポール・オークンフォールドのツアーバスの現在地を確認している。

コーベルは特別にデザインされた、エイリアンをイメージしたグリーンのバドワイザーの缶を開けた。地球外生命体の研究に明け暮れる次男のことを、母親はどう思っているのかと尋ねてみる。「今は理解してくれてるよ」。彼はそう話す。「でも最初はこう言われたけどな。『お前はチンコをピーナッツバターに突っ込んでる。イカれてるよ』」って。

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE