ROTH BART BARONに学ぶ、コロナ時代の新たなバンドカルチャー

ROTH BART BARONの三船雅也、黒鳥社の地下スペース「黒鳥福祉センター」で撮影(Photo by Yuri Manabe)

世界の最前線に触れてきた編集者、若林恵が主宰する黒鳥社が毎日更新しているマイクロSNSコンテンツ「blkswn jukebox」と、1年ぶりのニューアルバム『極彩色の祝祭』を発表した孤高のロックバンド、ROTH BART BARONのコラボが実現。さる10月27日にトークセッション「コロナ時代の新たなバンドカルチャー」がYouTubeでライブ配信された。

当日はROTH BART BARON(以下、ロット)の首謀者こと三船雅也と、「blkswn jukebox」編集部員である若林と小熊俊哉(Rolling Stone Japan編集スタッフ)の3人で議論。「クリエイティブを共有するためのコミュニティ」「プロデューサーは自分たちのファン」「インディ規模で世界レベルの音を作る方法」「どうやったら配信ライブは応急処置を超えられるのか?」など、音楽の未来を考えるためのヒントがいくつも飛び出した。

パンデミックは業界構造の行き詰まりを浮き彫りにした。世界は元通りにならないだろうし、これまでのやり方はもはや通用しない。そのなかで、常に時代の先を行くと言われる音楽はどのような未来を描こうとしているのか。これからも文化をサステインさせるためにはどういった方法があるのか。トークの模様を振り返る。

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左から若林恵、三船雅也、小熊俊哉(Photo by Yuri Manabe)


僕たちの強みは機動力

若林:実際にアルバムの制作に入り始めたのはいつ頃だったんですか?

三船:去年の末ぐらいです。中国でコロナの話が出始めたくらいの時期でした。

若林:でもその時は、まさかこんな大事になるとは思ってなかったでしょう?

三船:まさか思わなかったですね……。

小熊:そのなかで、アルバムタイトルにもある「祝祭」というキーワードはどういったところから浮上してきたんですか?

三船:もともとコロナの混乱が訪れる以前から、最近はタフな世界になってきたように感じていました。アメリカもああいう状況だし、UKでもブレグジットがあって、決して平和じゃない。第一次世界大戦の直前みたいなキナ臭さというか。中国とアメリカの拮抗も、1個ドミノが倒れたら全部がパタパタと倒れていきそうじゃないですか。

だから去年、2010年代の最後に『けものたちの名前』というアルバムを出して、次のディケイドに移っていくという時、「今後、2010年代までは通用していた事が通用しなくなるんじゃないか」ということをすごく思っていたんです。それは5Gとかテクノロジーの話かもしれないし、少なくとも今まで大事にしてきたことが、意味がなくなるんじゃないかという予感というか。これは結果論ですが、コロナ禍になって以降、人々が消費行動で幸せを得ることがなってきた気がします。毎年新商品が出る悦びが存在しなくなった代わりに、流行り物を買い続けなくてもいいという解放感があるというか。



若林:ROTH BART BARONは以前からクラウドファンディング(以下、クラファン)を積極的に使ってきましたよね。パンデミックが訪れる前から、CDをリリースして、そのプロモーションをする中でお金が回っていくという従来の音楽産業のやり方が、だんだん通用しなくなってきたことはみんなわかっていたんだけど、それでも何となく行けるところまで行こうという雰囲気もあった。でも、結局それがコロナですべてストップしてしまって、これまでのやり方を変えて次のフェーズに行かなければならない状況になった。そういう中で今回のアルバムの成り立ちや、今後のツアーでも色々な取り組みがあると聞いています。

三船:そうですね。若林さんとは2年前に「P A L A C E」というコミュニティを立ち上げる時にも、CINRA.NETの対談でそういう話をしましたよね。やっぱりミュージシャンとしては、ツアーが活動の一番メインなんです。創作をした後に、ツアーをして、お客さんと直接会いながら何公演もやって……というサイクルの中にバンドのライフスタイルがある。でも今年は、そういった1年間のスケジュールのうち三分の二を、コロナにゴソっと持っていかれてしまった。

若林:下世話な言い方をすれば、それって収入源の三分の二を持っていかれるという話ですよね。

三船:バンドにとってはそういうことです。それはミュージシャンみんなが辛いところだと思う。巨大なオフィスを構えている人たちとかは関わってる人数も多いので、停滞しているだけでも、ものすごい血が流れている状態だと思います。そういう中での僕たちの強みは機動力で、だからこそ配信ライブのアプローチも「コロナ禍の期間だけやりました」っていう形にはしたくなかった。例えば、クラファンとかで「ライブハウスが生き残るために200万円を集めたいんです」って動いても、こんなに長い間ライブハウスが開けない状態が続いていたら、そこで集まったお金って家賃に全部消えちゃいますよね。音楽ファンがサポートしたお金が、結局そのまま大家さんに入っちゃうというのは、本当に意味が分からないですし、僕らはそれと同じような活動にはしたくないなと。

若林:すごくわかります。

三船:じゃあ、この先につながるアイデアをみんなと共有できないかなと考えた時に、日本全国で十数公演のツアーをやって、その全ての現場に配信のクルーを連れていこうと。ライブミュージックをカメラ越しに届けつつ、安全性を保ったうえで可能な限りお客さんも入れて、(現場と配信の)どちらのスタンスにもスイッチできるようなやり方ができたらと考えたんです。その経験値をミュージシャン自身が稼いでいくということを、まだ誰もやっていないから、それをやることで何か一つの結果を出せたら、よりよい未来につながるんじゃないかなと思って。

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