ROTH BART BARONに学ぶ、コロナ時代の新たなバンドカルチャー

「もらう/返す」から解き放たれた関係

若林:逆に、今までの試みのなかで、大失敗というのはありました?

三船:今のところはないですね。オンラインのファンコミュニティ「P A L A C E」もスタートしてから3年経って、勝手に転がるようになってきました。以前、若林さんと対談した時は本当に最初の最初で、どうなっていくのか全くわからなかった。200人ぐらいファンがいなくなることも覚悟して始めましたけど、今は結果的にいいコミュニケーションができています。


PALACEのアートワーク(Designed by Ayako Iyobe from “PALACE")

若林:実際、どういう感じで運営しているの?

三船:クリエイティブなことを共有することが多いです。「こういうグッズ作りたいんだけど、良いボディを仕入れられる場所を知ってる?」とか「そもそも何のグッズがいい?」とか。今日(10月27日)はちょうどアルバムの店着日なので「ショップから目撃談を送って」とか「ラジオにめっちゃリクエストするのどう?」みたいな。もっと何気ないこと、例えば僕が最近聴いてる音楽とかも共有してます。

若林:300人ほどがコミュニティ内にいらして、その中にリーダーっぽい人とか、コミットメントがより深い人とかみたいな階層はあるんですか?

三船:ありますね。熱心に動いてくれる人もいれば、ただ見てるだけの人もいるし、まだどうやって参加してのいいかわからない人もいる。あえてガイドラインも設けてないので、参加の仕方にもグラデーションがあるし、基本的にはフリーダムです。

小熊:なるほど。たださっきの例だけでいうと、ファンの人から与えてもらう話のほうが多くて、三船さんも何かしら返していかないとイーブンな関係にならない気もするんですけど。

三船:いや、そこを「もらう/返す」として捉えると、気を遣い合って破綻すると思うんです。このコミュニティに関しては、互いにお金をもらってるわけでもないし、投げっぱなしの方がいいと思ってます。

若林:とはいえ、その割り切りって勇気がいるでしょう?

三船:いりますね。ただ、最初は気を遣うこともありましたけど、300人を相手に気を遣い続けると、たぶんどこかで破綻すると思うんですよ。

若林:どこかで読んだんですが、イヌイットの社会では「人から何かをもらった時に『ありがとう』って言うな」という話があるそうで。人に何かをしてもらった時に、それに感謝するのは大事なことではあるんだけど、一方で貸し借りの関係を作ってしまう。でも、実は貸し借りの関係はできるだけ作らないようにした方がいいのかもしれない。いまのコミュニティの話もそうで、何かをしてもらったら当然返すべきだろうっていう前提で考え始めると、どんどんおかしなことになってしまう可能性はありますよね。

三船:そこが応酬になると目的が失われてしまうし、近代社会の風習に食い潰されてしまう。それは僕がやりたいことじゃないし、むしろみんなも、そこから解き放たれたくて音楽が好きになったんじゃないかとも思うんです。だからここでは、どうやったら現代の人たちの生活に合わせた健康的な関係を築けるだろう、みたいなことを考えながら転がしてます。

イメージ的にはバンを改造して、みんなでバンライフ(車中泊旅)をしている感じ。コミュニティとしての国とも接点を持ちながら、もっと自由にドライブできる環境をみんなで動かして、何か違う景色とか体験ができたら楽しいなと。「キャンプ場でライブをして、土砂降りでめちゃくちゃ疲れたけど、楽しかったね。きっと一生覚えてるよね」みたいな。



若林:でも、その時の三船さんの立場って何なんでしょうね? (「P A L A C E」の)他の人たちとは明らかに違うだろうし、別にイーブンなわけでもないんだけど、上にいるっていう感じでもないだろうし……。

三船:世代的なこともあると思うんですけど、リーダー然としたリーダーみたいな感じではない気がします。さっき話したキャンプファイヤーの企画でも、焼き芋の火の近くで煙まみれになっているスタッフに「大丈夫?」って定期的に話しかけたり、裏方役に回ってます。音楽のことは責任を持つけど、それ以外のことは全体を見て、必要なことを手伝う。野菜を切る人手が足りなそうだから一緒にゴボウを切るとか、焚き火が消えてお客さんが寒そうだなというところに火を足しにいくとか、割と雑用係ですね(笑)。でも、全員がちゃんと話せるようには気を遣ってます。

若林:これは話しづらいかもしれないけど、「難しい人が来ちゃったなー」みたいなことはないんですか?

三船:今のところはないですね。気持ちはわかるけど、何か物事を始めようとするときに先ず起こりそうなリスクについて心配する人が多い気がするんです。そうじゃなくて、どうやったら新しいアイディアを実現できるか、プロジェクトに夢中になってそれが成功できた未来を強くイメージしていく。起こってもいないトラブルシューティングに気を取られてしまうのは何かがもったいないな、と。それに僕らの音楽や存在を自分のストーリーの中で完結させたい人は、そこまで近づいてはこないようにも思うし、それももちろんOKで、出来るだけグラデーションを用意して、もっと近づいてみたい人にもその深い通路を進めるようにPALACEをデザインできたらいいなと思っています。まだまだトライアルも多いですけど。

小熊:コミュニティが上手く回っているのは、そこに参加している人たちが、三船さんがここまで話してきたような思想を多かれ少なかれ理解しているから、というのも大きいんですかね。「売れたもん勝ち」「数の大きいほうが正義」みたいな考え方と別の価値観を提示しようとしていることが、しっかり伝わってるからこそなのかなと。

若林:あとは、やっぱりそこに音楽があるからなのかなと。例えば、ウィルコとかフィービー・ブリージャーズみたいな人たちが同じようなクラファンをやっていたとして、ファンは彼らの音楽が好きだからこそ参加するわけで、それを台無しにするようなことはしたくないですよね。その音楽のトーンやテクスチャーだったりを気持ちよく体験することが損なわれるんだとしたら、誰もやってる意味がないので、言語化された思想ではなく、そうした言外の感覚みたいなものが一種の合意点としてあるというのが、大きいのかもしれないですよね。

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