U2『All That You Can't Leave Behind』20周年、ジ・エッジが振り返る完全復活の裏側

アメリカ同時多発テロへのリアクション

ー最近またこのアルバムを改めて聴きなおして、多くの曲の歌詞に表れているダークな部分に衝撃を受けました。たとえば「ビューティフル・デイ」の主人公は心底ひどい一日を過ごしていますよね。「スタック・イン・ア・モーメント」に描かれている人物は自殺することを考えています。「ニューヨーク」は妻を裏切ったことで自分の世界が崩れ落ちてしまうという歌です。だからこそ、これらとの対比で「ワイルド・ハニー」の明るさが際立っているのかなとも感じました。

ジ・エッジ:その通りだろうね。当時の俺たち自身にもあの「ワイルド・ハニー」はほかの一切と大きく矛盾しているように思えていたものだよ。あまりに明るくまばゆくて、そのうえ甘ったるいもんだから、一時は収録曲から外そうかという寸前にまでいった。でもあの曲にはほとんど愚かさにも等しいほどの無邪気さがある。次に「ピース・オン・アース」が続いて出てきた時に、これが非常に重要になった。あっちはたぶんU2がここまで書いてきた中でも最も荒廃した曲の一つだからね(笑)。これは俺にも多少の責任があるな。あの歌詞を書き始めたのは実は俺なんでね。

でも俺たちは、アルバムの中に矛盾する要素を入れ込むといったことで思い悩んだりはしない。なんていうか、そういった矛盾の極限というか、そういう領域にこそ目指しているものがあったりするんだ。そういうものをただ一曲の中で表現することは不可能だが、でも相反するもの同士の孕む緊張感の中にならば立ち現れてくれることがある。むしろその方が容易だったりする。それこそがあの「ワイルド・ハニー」が、結果として本作において重要な位置を占めることになった理由だろうね。


Photo by Anton Corbijn

ー貴方がたがこのアルバムを作っていたタイミングというのも非常に興味深いですよね。レコーディングが始まったのは90年代でした。発表はまさにブッシュ対ゴアの票の数えなおしが行われようというほんの数日前のことでした。その後ツアーに出られた訳ですが、その最後の公演に挑もうかというところで9.11が起きました。世界は貴方がたの足元で、目覚ましく変革していたんです。

ジ・エッジ:うん。確かにこのアルバムの発表後にはそうした物事がたくさん起きた。多くはツアーの最中だ。結局は9.11の後でスーパーボウルの舞台に立つようなことにもなった。そこで舞台監督と話し合い、9.11の犠牲者らの名前をスクリーンに映して追悼しようと決めた。とても意味のある時間になったよ。

その後のニューヨークでは、本当の意味で浄化と呼べるようなステージをやることもできた。9.11の初動対応に当たった人々が舞台に上がり、テロで命を落としてしまった同僚たちのことを話してくれたんだ。心底胸をかきむしられるような体験だった。同時に音楽の力というものを思い出させてももらったよ。人々が感情を言葉にし、それと向き合い、受け止めて、内化していくその手助けができるんだと改めてわかった。そんな役目を担えることには身が引き締まる思いがしたし、感動もした。

確かに俺たち自身もまるでジェットコースターに乗せられてでもいるかのようだった。でも作品はそんな加圧試験のすべてに耐え抜いてくれた。悪くない気分だったよ。大抵の場合は一室に六人で顔をつきあわせてみたいなやり方で曲を作り、それを世界に向けて放つ。でも一旦世に出てしまえば歌たちはそれぞれに自身の命を得ていくものだ。その曲がどういう形で使われるのかはこちらにはわからないし、表になってどんな価値を持つのかも同様だ。だからこうした曲のうちの幾つかがその時代に大きな意味を持ち、人々と強く強く結びついてくれていたりするのがわかった時にはもう、本当に言葉が出ないほど唖然としてしまうよ。


Translated by Takuya Asakura

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