U2『All That You Can't Leave Behind』20周年、ジ・エッジが振り返る完全復活の裏側

イーノとラノワの貢献、「ビューティフル・デイ」制作秘話

ーブライアンとダニエルとはかなり違う個性の持ち主ですよね? レコーディングのスタイルも大分異なっている。二人がどんなふうに一緒にやってバンドから最高のものを引きだしていったのかといった辺りをうかがうことはできますか?

ジ・エッジ:イーノはまあ、すっかり完成されたミュージシャンという訳では決してない。だからスタジオでのレコーディング作業となると、彼の力量というのは、方向性の提示とそれから今まさに何か新しい、地殻変動じみたことが起きつつあるぞという手応えを強固にしてくれるような形でまず働く。こういうことを彼自身が「オブリーク・ストラテジーズ」のカードをまとめたやつの中に入れ込んでいるよ。俺たちとの現場では使わなかったが、ほかのアーティストとの仕事ではだいぶ使っているみたいだね。あれはなんだかタロットカードの一種みたいでさ、そもそもはこうしたセッションが、たとえば誰かの演奏が小っちゃくまとまってしまったり、さもなければ全体の音が覇気なくすっかり予測の範囲内に収まっちまっているような状況で、何か新しい手段を講じなくちゃならないような時のために考案されたものなんだ。

こういった実験や現状の把握の中から、スタジオの中における創造性とか、あるいはミュージシャン同士が協力するとはどういうことかといった明快な理解が彼の中にできあがっていったんだと思うよ。スタジオの現場で創造的な精神ってやつを刺激し導いていくことに関してブライアンはエキスパートだ。つまり大抵の場合、彼は早い時間からスタジオ入りして、何かしらいじくっているということでもある。そしてそういうのを、その日の糸口として我々に示すんだ。こちらもそこに乗っかっていく。すると幾らもしないうちに、全員が新しい曲にそれぞれの居場所を見つけ出しているんだ。




ーそういうことが曲へと繋がった具体的な例というのは今思い浮かびますか?

ジ・エッジ:俺も大好きな曲なんだが「ニューヨーク」がそうだ。取っ掛かりは、彼がラリーのプレイの中から見つけてきたあるパターンのループだった。それを繰り返しかけているうちに、彼がまずあの短いキーボードのパターンを思いついた。朝8時にはもうスタジオに全員が揃っていて、そして一人ずつ、そのドラムと鍵盤の繰り返しのパターンに乗っかる形で演奏を重ねていったんだ。あの曲はそんな具合にしてできあがった。あれこそはブライアンが筋書きを描いてみせる格好の例だよ。こっちはもはや住み慣れた場所にいることなど許されなくなって、新しいものに飛び込まざるを得なくなる。

一方のダニーは俺が思うに、音楽を深いところで感じ取り、そのことによってある種理屈抜きの力を持ったサウンドを生み出していくよう周りを引っ張っていくタイプだ。それがたぶん、彼がプロデューサーとしての実績を積み上げているだけでなく、一人の音楽ファンでもあり続ける一番の拠り所なんだと思う。だからダニーの感性というのは、きっちりと潜在的な力を持っているような音へと向かう。俺ら自身そういう場所で生きていこうとしている訳だが、近くにダニーのような存在がいて、歌のそうした側面や、その手の力を有した響きの一部分に焦点を合わせ、強調してくれることは本当にありがたい。また彼は優れたミュージシャンでもあって、いつだってギターもマラカスもペダルスティールも喜んで引き受けてくれるし、コーラスも担当してくれる。あのレコードでもたくさんやってもらってる。

こうやって話しているうちに、ダニーと「ビューティフル・デイ」をやった時のことを思い出したよ。俺たちでボノの代わりに「ビューティフル・デイ」のコーラスを埋めたんだ。彼はメロディーのアイディアをしっかり自分のものにしていたし、歌詞もばっちり決まってた。だけどスタジオを出ようとした時だった。コーラスの部分が聴こえてきたんだが、どうにも生々し過ぎて響いた。そこで俺はマイクの一本を手にし、高音のバックコーラスを自分で歌ってつけ足した。俺は基本ミニマリストだから、この時も最小限の音符でコーラスを仕上げてやろうと考えていた。

そこでダニーも何かしら聴き取ったんだな。不意にセカンドマイクを掴んだかと思うと、俺のコーラスにさらに声を重ねてきた。でも彼のラインはひどく入り組んでいて、まるで滝みたいだったよ。結局はこの二つの声が、あのボノの主旋律に拮抗する美しい対位旋律(カウンターポイント)として仕上がったんだ。

これこそはあの曲が必要としていた最後の鍵だった。まあだから、ブライアンとダニーと仕事をする時は大体こんな感じだよ。レコーディング期間中はバンドの五番目と六番目のメンバーにもなってくれている。互いに発想を維持し、刺激し合う、ある意味では実に有機的な関係性だ。こういう部分が肝心なんだ。いつもなんとかして作り上げようと悪戦苦闘しているものだよ。

Translated by Takuya Asakura

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