U2『All That You Can't Leave Behind』20周年、ジ・エッジが振り返る完全復活の裏側

「バンドの化学反応」と「音色の可能性」

ーレコーディングの初期の段階で、このアルバムは何かすごいものになりつつある、自分たちはそういうものを作っているんだといった理解が訪れる、ある意味突き抜けたような瞬間があったりもしたのでしょうか?



ジ・エッジ:「スタック・イン・ア・モーメント」の全体がまとまったのはかなり早い時期だった。取っ掛かりは「ポップマート・ツアー」中に俺がいじくっていたモチーフだ。ブライアン(・イーノ)とダニー(ダニエル・ラノワ)に加わってもらうより前にもうすでに、俺とボノとで仕上げていたんだ。こいつが手持ちにあったことは好都合だった。もう一つ、「カイト」もすでに一応はバンドで仕上げていた。あのサウンドはすごいなと自分たちでも思えていた。

収録曲のほとんどは、スタジオで全員でああでもないこうでもないとやるうちに次第に形になっていった。ブライアンとダニーとは、レコーディングはもちろんのこと、こういったいわば、スタジオ自体が曲作りの一つの手段になるような制作のやり方に関しても達人なんだ。曲のアイディアが降りてくるという事態はこうした制作課程の中で起きる。手触りや響きがちょっと面白いな、なんて思いながらフレーズなりリフなりを弾いているうちに湧いてくる。

面白いなと思うのは、こういうのが結局ありきたりの場所に落ち着いてしまったりはほとんどしないことだ。伝統的なソングライティングというものには、すでにすっかり踏み固められてしまった、紋切り型のイメージの轍を踏んでしまいかねないという厄介な問題がつきまとう。ところがまず響きから入ると、予測されやすいような道筋をいきなりすっ飛ばしてしまうことができるんだ。そうやって、まだ誰も手をつけていない斬新なものへとたどり着ける。こういう方法は俺らのそもそもの出発点でもある。

『POP』ではまず、物事をできうる限り解体してしまうところからアイディアを持ってきていた。だからこの課程においては自分たちが、アルバムとして完成した作品自体よりもさらに先へ行ってしまっていたような場面も実はあった。『POP』の制作中のある段階で、俺たち自身、どうも自分たちは、ロックンロールのバンドがこう在るべきと思われているその肝心な一面を失いつつあるんじゃないかということには気がついたんだ。それでほんの少しだけ引き返すことにした。

『All That You Can’t Leave Behind』では作品全体でバンドの化学反応というものを目一杯まで見せたいと考えていた。でもそうしようとすると、今度はまるっきり真逆の問題に乗り上げてしまうことがままあった。ロックンロールのバンドがなんだかどれも同じように聴こえてしまいがちだという点だ。ギターにベースにドラムという編成では、音色の可能性というのは、少なくはないがかなり限定される。だからこそブライアンとダニーがいてくれて助かったんだ。ブライアンは響きに対するセンスが素晴らしく、それらを編み上げることに関しては達人だ。とりわけシンセサイザーには精通している。これが俺たちの演奏と拮抗して、音に決定的な箔をつけてくれるんだ。すべての音がバンドのものでありながら、同時に独特であるということが可能になった。

Translated by Takuya Asakura

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