T字路sが語るコロナ禍で見つめ直した原点、結成10周年とふたりの新しい旅路

それぞれの楽曲について思うこと

―基本的な質問になりますけど、アルバムタイトルを『BRAND NEW CARAVAN』と付けた、その思いを教えてください。

伊東:始めに話したように、10周年でもう一度初心に帰るみたいなこともあるし、Mix Nuts Recordsというレーベルを立ち上げてここからチームでやっていくということの思いもあるし。表に立つのは私たちふたりですけど、10年続けていたら頼もしいチームができていて、そのチームと共にレーベルもできて。いま世の中はこういう状況ですけど、このチームでまた前を向いて旅に出ようっていう、そういう気持ちが詰まってるんです。

―キャラバンというと、ラクダに荷物積んで砂漠を隊をなして進んで行く商人の一団という意味があるじゃないですか。

篠田:それもあります。僕らは商人とは言わないけど、いまのこのチームでギターとベースを積んで、砂漠を旅していくような気持ちでいるので。だから最初、このジャケットもモロッコっぽくして、ラクダとか入れちゃおうかってデザイナーさんと言ってたんだけど、それはやりすぎだろうってなって。

―オープンカーってことで、だいぶモダンなジャケになりましたよね。で、運転手はやっぱり妙子さんなんですね。

伊東:そうなんですよー。運転できないのに。一生に一度の思い出だと思ってハンドル握ってみたんですけど。

篠田:最初言われたときは、「オレらがオープンカーかぁ。ダットサンとかにしてもらったほうがいいんじゃないですかね?」って言ったんだけど、まあせっかくなんで、かっこつけようってことになりました(笑)。



―では、時間に限りがあるので全曲について聞くことはできないけど、特に重要だと思える曲について聞いていきますね。まずリード曲の「夜明けの唄」。これぞT字路sって感じの曲ですが、“嘘か本当か 夢かうつつか 風に吹かれて からまりもつれて わからないの”“心迷いながら 果てまで行く他ないのならば 光も影も 抱いて進もう”という歌詞は、コロナの世界に直面したことから出てきたものなんですか?

伊東:それは聴いてくださった方からよく言われるんですけど、自分としては念頭に置いて書いたわけではなかったんです。ただ、念頭に置いて書いたわけではなかったけど、コロナがなかったらこういう詞にはなってなかったかもしれないなって思うところは確かにあるんですよ。それはこの曲以外にもいくつかあって。だから、潜んでいたものがコロナで浮き上がってきているのがいまで、そのなかで詞を書いたらこうなったってことなんだと思います。

―念頭に置いてはいなくとも、どうしても滲み出てくる。

伊東:うん。それが自然だと思うし。避けては通れないというか。

―“光も影も 抱いて進もう”という歌をいま聴くと、どうしたっていまの世界の状況を自分のなかで重ねて胸が熱くなっちゃいます。

伊東:聴いてくれるひとがそうやって重ねて、そのなかで力になるんだったら嬉しいなと思いますね。

―それから2曲目の「宇宙遊泳」。30分で書けたとさっき言ってましたけど、めちゃめちゃ好きなんですよ、この曲。特に“繋がってゆく 途切れて消える もう もう戻れない”というサビのメロディがよくて、最近気がつけば歌っちゃってます。

伊東:わー、嬉しいです。



―でもどうして「宇宙遊泳」というタイトルなんですかね。

伊東:アレンジがそんな感じじゃないですか? スペーシーな感じというか。それに、気づいたら宇宙空間にいるようじゃないですか、人生って。なんか、いつのまにやらここにいるみたいな感覚があるというか。私のなかでそういう感覚がすごく大きくて、それで付けたんですけど。

―このなかで、“戦う 祈る 叫ぶ 誰のために もう戻れない”と歌っています。歌手として自分は誰のために叫んでるんだろ、ってことを考えたりもするもんですか?

伊東:考えたりしますね。その答えはひとつじゃなくて、自分のために叫んでるって思うときもあるし、誰かそのひとのためだけに叫んでるときもあるし。そういうことを考え続けて歌っていく日々なのかなって思いますね。

―4曲目「クレイジーワルツ」についても聞かせてください。これは新境地だし、ワルツと妙子さんの歌の相性のよさにグッときたんですが、このアレンジは初めから考えて作っていたんですか?

篠田:最初の妙ちゃんのデモに、しょぼい3拍子でこのメロディが入っていて、それを聴いて「あ、ワルツをやりたいんだな」って思ったんです。僕も3拍子の曲が好きだから、よしって思って。初めは(エディット・)ピアフが昔の劇場で歌っているライブ盤みたいな音にしようとアレンジを考えていたんですけど、そうはならなくて。でもならないなりに面白いアレンジになったかなと。メロディも歌詞もけっこうストレートだから、オーケストレーションとかのリアルさを求めるのもちょっとダサいかなと思って、どっか狂ってる感じを出したくなったんですよ。なんの映画だったか忘れたけど、宇宙船のなかで昔のジャズが流れているシーンがあって、そのイメージがずっと頭のなかにあった。そういう壊れたイメージのアレンジにしようといじっていたら、こうなったんです。

伊東:篠ちゃんのあのクレイジーなアレンジのおかげで、ストレートな詞もどっか狂ってるように感じるというか。狂ってるのはどっちなんだ?って気持ちになる仕上がりがステキだなと思ってます。

―“悲しみの雨が降り 世界中が泣いている”その様を、また別のところから見ているような。

篠田:そうそう。なんか上のほうから引いて見ている映像のような印象の曲にしたかったんです。

―アフターコロナ感があって、そういう意味でいまっぽい。

篠田:なんかね。やっぱりコロナのせいだと思うんですけど、今回はそうやって世界を上から見ているイメージだったりとか、戦争のシーンがスローモーションで動いてる感じとか、そういうイメージが頭のなかでずっと回っていて。

伊東:だから、その曲のテーマが直接コロナと関係なくても、詞にもアレンジにも出ちゃってるってことだと思いますね。



―それから9曲目の「沼」。この曲だけ音色が違っていて、ガレージっぽい。

篠田:ミックスしてくれる内田(直之)くんに渡す前提で、フィードバックとかの音を入れて、こういう音響にしてほしいというイメージを僕が仮に作っておいたんです。そしたらそれが採用されて、内田くんがそこに少し手を加えてくれた。こういうマイナー調の曲をいつも必ず入れるんですけど、それにあたっての肝は、怖くなりすぎないようにするってことで。妙ちゃんがこういう曲を本気で歌うと、けっこう怖くなるんですよ(笑)。だから怖くなる一歩手前にしておくというか、妖怪のアニメのテーマソングみたいなユーモアを残すように心掛けたんです。

―言われてみると、「ゲゲゲの鬼太郎」チックなところ、ありますね。

伊東:そう。怖くなりすぎないように、ちょっとトボケ感を残した感じで歌いました。

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