T字路sが11月4日に、ニューアルバム『BRAND NEW CARAVAN』をリリースした。
ヴォーカルとギターの伊東妙子。ベースの篠田智仁。ふたりがT字路sを結成したのは2010年5月なので、今年は10周年。T字路sといえばなんといってもライブに定評があり、フジロックを始めとするさまざまなフェスやイベントで初めて観た者たちを驚かせてきたわけだが、この4~5年はアルバムもコンスタントに発表。『BRAND NEW CARAVAN』は前作『PIT VIPER BLUES』から1年10ヶ月ぶり、オリジナルでは3枚目のフルアルバムであり、新レーベル『Mix Nuts Records』を立ち上げての第1弾作品となる。
今作は従来のスタジオ一発録りではなく、ふたりが約3カ月半の間、試行錯誤を重ねながらとことん楽曲に向き合って完成させたもの。ライブとは切り離してアレンジをつけていった初めての作品だ。が、音とメロディの生命力は少しも失われることなく、多彩な楽曲がそれぞれに相応しいアレンジや音像で、生き生きと輝かしい個性を放っている。
いままでと違うその制作の仕方は、そしてコロナ禍は、T字路sの作品にどう影響したのか。原点を見つめながら、いままた真新しい旅を始めたふたりに話を聞いた。
―僕が過去にしたT字路sのインタビュー場所はいずれもファミレスでしたが、今回はこのようにユニバーサルさんの夜景の見える広いお部屋ということで。
伊東:勝ち組の景色ですよね(笑)。
―ははは。新作がユニバーサルミュージック(Caroline International)から出ると聞いて、最初は「え? T字路sがまさかのメジャーデビュー?」って思ったんですけど、そういうことではないんですよね。
伊東:全然全然。
スタッフ:スペースシャワーを3月に離れて、Mix Nuts Recordsというレーベルを新たに立ち上げたんですよ。スタッフもふたりぐらいのミニマルな形になって。ユニバーサルさんにはディストリビーションで協力してもらってるんです。
篠田:だから、むしろド・インディペンデント。10年前くらいの感じに戻ったというか。
伊東:裸一貫みたいな気持ちで、清々しいです。
―よかった、っていうのもアレですけど、やっぱりインディーズ魂あってのT字路sですからね。メジャーを目指してやってるわけではないですもんね。
篠田:そういう意識はないですね。それよりも誰と組むかのほうが大事というか。いまはやっと自分らのチームが固まってきたので、いい感じですよ。心はもろにインディーズ。インディーズというか、野良犬というか(笑)。
―というわけで、3枚目のオリジナル・フルアルバムが完成しました。意外とペース、早いですよね。
伊東:前作(『PIT VIPER BLUES』)が2019年の1月だったから、2年経ってないですね。
―初のオリジナル・フルアルバム『T字路s』を出したのが2017年3月で、そこからポンポンポンとかなりいいペースで作っているという印象です。
篠田:1年制作したら、次の年はツアーをたくさんやって、また次の年は制作するっていう流れで。そのサイクルが自分たちに合ってるかなって思ってます。
伊東:ツアーしながら曲を作り貯めるってことができないんですよ。なので。
篠田:まあ、もっとゆっくりしていいって言われたら、いくらでもゆっくりやるんですけどね(笑)。でも今回は10周年ってこともあって、今年中に出したいねって。
―なるほど。じゃあ、コロナでライブができなくなったから制作が早まったというわけでもなく。
伊東:なく。わりとスケジュール通りです。
―T字路sと言えばまずライブだし、おふたりともライブが大好きなので、コロナでやれなくなったのは精神的にだいぶ辛かったんじゃないかと想像していたんですが。
伊東:そうですね。自分が何者なのかわからない気持ちになることもありました。制作に向かうことで気持ちが切り替えられたんですけど。
篠田:前半はその気持ちを引きずったまま制作していたところもあったんですけど、だんだんと吹っ切れて。結局どういう状況になろうとも、それに合わせてやっていくしかないから。オレらはいつでもどこでもできるというのが強みだし。だから配信だろうがなんだろうが、「かましてくぜ!」っていう。むしろ初心に戻れた感じですね。
―最後にやった有観客のライブって、いつでしたっけ?
伊東:8月に1本、キャンプフェス(「CAMPus」@富士見高原リゾート)に出たんですよ。それは急遽決まったもので。あとは1月に「忌野清志郎 ナニワ・サリバン・ショー」に出させてもらって。でもしっかりワンマンをやったのは、去年11月のキネマ倶楽部が最後でしたね。
―ナニワ・サリバン・ショーでは、斉藤和義さん始め、いろんなアーティストがT字路sを絶賛してましたね。
伊東:あれはいまでも夢だったんじゃないかと思うぐらいの時間でした。だってすぐそばに、のんちゃんとかクドカンさんとかいるんですよ。
篠田:なんでオレたち、ここにいるんだろ?ってなったよね。迷い込んだ野良猫みたいな感じで。
伊東:でも、そんな野良猫みたいな私たちに、みんな優しくしてくれて。「どっからきたの~?」みたいな(笑)。
―あのイベントで初めてT字路sを観たというお客さんも多かったと思うけど、しっかり爪痕を残せたみたいじゃないですか。
伊東:そうですね。6千人の前でしたけど、やり切れたかなとは思います。
篠田:反骨心が強いので、オレたちを知らないひとたちが多い場所だと、かえって燃えるというか。あのときも「絶対に爪痕残そうぜ!」って覚悟決めてやりましたからね。