矢沢永吉、2000年代以降の作品を辿る

あ、な、た、、、。 / 矢沢永吉

2012年のアルバム『Last Song』の中の曲です。"お前"という風に若い時に歌っていたロックシンガーが、"あなた"と歌うようになる。これを大人の成熟と言わずに何と呼ぶんでしょう。改めて2000年代のことで思ったことが色々ありまして、矢沢さんがこの2000年代以降追い求めてきたこと、例えばロックと年齢、音楽と時代の音、メロディの普遍性、というようなことなんじゃないかなと思ったんですね。矢沢さんが1980年代にアメリカに行って、アンドリュー・ゴールドのスタジオで打ち込みを見せられた時に、新しい世界が広がった気がした、嬉しかったと仰っていましたが、そういうテクノロジーに刺激された音に惹かれていった時代。これは誰でもあると思うんですが、そういうことだけじゃないのではないか? というのが、2000年代以降の活動のように思えるんですね。Rock Opera2でニュースタンダードっていうタイトルをつけたのもそうでしょうし、2006年から2007年にかけては、YOUR SONGSというリミックスシリーズを6枚リリースしました。ソロになってからの曲に手を加え直して、オリジナルアルバムに縛られずに収録したアルバムだったんです。そうやって彼は時代を越えようとしたんだなと改めて思います。そういう作業の後に出たオリジナルアルバムが、2006年の『ROCK’N’ROLL』、『TWIST』、『Last Song』と続いているわけですけども、その頃のインタビューで彼は「アメリカの何がすごい、イギリスにこんなすごいっていうミュージシャンがいるし、そういう人たちとやってみたかった。でも、それは作り手の自己満足なんじゃないかなとも思ったりした。すごい奴は日本にもいるんだ」という話をしてた記憶があります。言ってみれば洋楽コンプレックスからの解放ですよね。2009年以降のアルバムがシンプルになっていったのはそういう変化でもあると思います。2012年に『Last Song』がリリースされた時に、タイトルから察して引退なんではないか? と囁かれましたね。でも、その次に出たアルバムが去年に出た『いつか、その日が来る日まで…』でした。そう考えるとこのアルバムの意味が違って感じられるのではないでしょうか。この曲をお聴きください。「魅せてくれ」

魅せてくれ / 矢沢永吉

『いつか、その日が来る日まで…』からの一曲。作詞はいしわたり淳治さんですね。伊秩弘将さんなど初めての方とも組んだアルバムです。先日、TV番組「関ジャム 完全燃SHOW」で矢沢さんがゲストに出ていて、音楽の話をしていました。面白かったのが、本間昭光さんなど現役のアレンジャーが、色々訊くわけですが、なぜあの曲であのコード進行なのか? ということを訊かれた時に、矢沢さんが「コードを知っていて作ったわけじゃない。音色が気に入っただけなんだよ。それをあとで訊いたら、なんとかっていうコードだっただけなんだよ」と。つまり、今、音楽を作ろうとしている人たちが、まず知識を先に入れる傾向があるのとは、全然違うところから音楽に入っていって、それを表現しているというとても象徴的なエピソードだと思ったんですね。ノウハウとかマニュアルが全くない。全部が自分の感覚や直感ということで、矢沢さんの身体の中にあるものが全部音楽になっている。矢沢さんも、この番組は面白いと言われてましたが、"成りあがり"とは違う矢沢さんの姿が見れたとても貴重な番組ではないかと思ったりしました。さて、『いつか、その日が来る日まで…』で一番驚いたのが、作詞家になかにし礼さんが参加していたことです。彼が作詞したうちの一曲をお聴きいただきましょう、「海にかかる橋」。

Rolling Stone Japan 編集部

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