「私たちのヒーローだった」アンディ・ガルシア、ショーン・コネリーを追悼

ロシア語のアクセント云々ではなく、このストーリーのキャラクターの心の中で起きていることに注意を払わなければいけない——これがショーンの哲学だった。そしてショーンは、全員に最高のレベルで試合することを期待した。彼が模範を示してくれたんだ。「俺はベストな状態で試合に挑む。だからお前もそうしろ」という具合にね。

ショーンは、並外れたユーモアの持ち主でもあった。それは極めてドライで、辛辣なものだった。あるとき、私たちは(『アンタッチャブル』の)電話のシーンを撮影していた。そのシーンで私は、廊下の先にある受話器を取ることになっていて、カメラは廊下の反対側にあった。電話の相手役のショーンは、カメラには映っていない。彼はすでにゴルフウェア姿だった。早くゴルフをしに行きたかったんだ。でも彼は、俳優として私をサポートするため、撮影現場にいてくれた。同室のシーンではなかったけど、一緒に演じるシーンだったから。「3時に試合が始まる」と言いながら、ショーンは早く撮影を終えたがっていたよ。

最初のテイクでブライアン(・デ・パルマ監督)は納得しなかった。というのも、私は受話器を取ったのに、カメラに顔を向けなかったから。「あのさ、ブライアン、ただ廊下の向こうの電話を取るだけだ。このキャラクターは、カメラに見られているなんて思っちゃいない。ただ、電話に出るだけだ。だから、カメラに顔を向ける必要なんてない。そんなの、すごく不自然じゃないか。カメラに向かって話しているのが見え見えだし、人間の自然な行動に反することだよ」と言った。顔を見せるか見せないかをめぐり、ブライアンと堂々巡りになってしまった。でも、私にブライアンとの議論をけしかけたのは、ショーンなんだ。2テイク目のために現場に戻ると、そのシーンに備えて私はカメラのほうに向かった。ショーンは、私の隣でリンゴの箱に座っていた。すると彼は、私のほうを見て(コネリーの声を真似ながら)「さっさとしなさい。ハムレットじゃあるまいし」と言ったんだ。

だから、もう一度このシーンを撮り直した。私はカメラに若干顔を向けて、ブライアンに少し顔が見えるようにしたけど、妥協したように思われたくなかった(笑)。そのとき、「カット!……アンディ、片眼しか見えなかったぞ!」とブライアンの声が響いた。するとショーンは大声で(コネリーの声を真似ながら)「両眼とも見えたはずだ。目と目が寄りすぎていて、ひとつに見えただけだ」と言ったよ(笑)。これがショーンのユーモアのセンスさ。

こうした時間を経験したのは、私だけじゃない。共演者全員がそうだった。ショーンはいつも微笑みを浮かべていて、大事な秘密を守っているような、いたずらっぽい表情を浮かべていた。辛辣なジョークを飛ばすときもあったけど、それは「しっかり演技しろ」という意味だった。たとえば、3テイク目では(コネリーの声を真似ながら)「どうした? カメラにフィルムが入ってないのか?」と言った。笑顔を浮かべながら「みんなしっかりしろ! 映画をつくっているんだ。全員集中!」と言うときもあった。ショーンの言うことは正しかったよ!

ショーンは、仕事しに来ていた。楽しい時間を過ごすこともあったけど、「俺からボールを受け取ったら、走れ。絶対しくじるなよ」的なところが彼にはあった。


Translated by Shoko Natori

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