tofubeatsが語る、人生で実践してきた「Rethink」とよりよい良い明日のための視点

tofubeats(Photo by Mitsuru Nishimura)

JTが今年6月、「Rethink」をキーワードに、これまでにない視点や考え方を活かして社会問題と向き合う「Rethink PROJECT」を始動させた。

新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活は大きな転換期を迎えている。今まで当たり前だと思っていたことが当たり前ではなくなり、多くのことに気づかされる一方で、日々アップデートされていく価値観に戸惑っている人もきっと多いはず。「多様性=ダイバーシティ」というキーワードが広く認知されるようになって久しいが、「視点」を変えながら「自分の軸」を確立させることは、口で言うほど易しくはない。「withコロナ」の時代を幸せに生きるために、私たちはどんな考え方を身につければ(あるいは「Rethink」すれば)いいのだろうか。

Rolling Stone Japanと「Rethink PROJECT」とのコラボとなるこの記事では、常にアップデートを繰り返しながら先鋭的かつポップな作品を作り続けてきたtofubeatsへのインタビューを通じて「Rethink」のためのヒントを探っていく。昨年地元の神戸から東京へと移住した彼は、様変わりしていくこの世界をどのように眺め、どのような「Rethink」をしてきたのだろうか。今回のために作成してもらったプレイリストを聴きながら、会社設立や結婚など、ここ最近彼の身に起きた「変化」についてじっくりと訊いた。


tofubeats
1990年生まれ神戸出身。中学時代から音楽活動を開始し、高校3年生の時に国内最大のテクノイベントWIREに史上最年少で出演する。その後、「水星feat.オノマトペ大臣」がiTunes Storeシングル総合チャートで1位を獲得。2013年のメジャーデビュー以降は、森高千里、の子(神聖かまってちゃん)、藤井隆ら人気アーティストと数々のコラボを行い注目を集め、これまでに4枚のアルバムをリリース。最近では、テレビ東京系ドラマ「電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-」や映画『寝ても覚めても』の主題歌・劇伴を担当するなど活躍の場を広げ多方面で注目されている。2020年は3月にデジタルミニアルバム『TBEP』、9月にリミックス集『RUN REMIXES』をリリース。(Photo by Mitsuru Nishimura)


「視点を変える」ために心掛けていること

─早速ですが、トーフさんは最近何かモヤモヤすることはありますか?

tofubeats:やっぱり昨今の情勢にはモヤッとすることは多いですね。ジムにも行けなくなっちゃったり、人前でライブが出来なかったり。人とご飯を食べに行けなくなってしまったのも辛かったですし。あと、コロナに対する「認識の差」というのかな。僕は割と気にしている方だと思うんですけど、気にしている人としていない人の認識にグラデーションがあることは気になりますね。

─神戸から東京へ引っ越しされたのは去年でしたよね?

tofubeats:はい。全て終わったのが昨年の春先くらいですね。ようやくいろんな人と会いやすくなるし、仕事もしやすくなるなと思っていた矢先にこんなことになって。これならもっと田舎に引っ越すのでも良かったくらいですよね(苦笑)。

─コロナに対する「認識の差」は、人々の対立や分断を加速させてしまった大きな要因でした。

tofubeats:例えば自分の行動が他者のリスクになる可能性がある場合に、どう動くかでその人自身が見えてくるというか。例えば今だったら、お客さんを入れているイベントに出演するかどうか。お客さんを入れる場合、感染対策はどのくらいしているか。いろんな人と議論を重ねていますけど、難しいですよね。それまで普通に仲が良かった人とも気まずくなることも結構あって、そのことにもモヤッとさせられました。

とにかく、一つのトピックに対しての捉え方って十人十色なのだなということは、改めて実感する機会にはなりました。それを踏まえて自分はどう振る舞うべきかについてもじっくり考えましたね。

─そういう時、自分の視点を変えれば相手の気持ちも理解しやすくなっていくと思うのですが、トーフさんは「視点を変える」ために何か心がけていることはありますか?

tofubeats:やはり本を読むことは大事だと思います。学生の頃はよく読んでいたのですが、社会人になってしばらく読んでいなくて。3、4年くらい前から仕事の資料として読み出したらまた急にたくさん読むようになったので、自分は「読書」が向いていることもそこでよく分かったんです。やっぱり、音楽制作をする上ではインプットして攪拌しないと考え方が変わっていかないと思うんですよね。外からの刺激が絶対に要る。自粛期間中は時間もできたので、今まで以上にたくさん読みました。

─やはり音楽を作る上で、音楽“以外”のインプットとその攪拌が大事ですか?

tofubeats:そう思います。昔、とある先輩が「ミュージシャン以外の人が音楽をやった方が絶対に面白いでしょ」みたいなことをずっと言っていて、「なるほどな」と思ったんですよね。それで自分は経済学部に入ろうと思ったところもあって。やっぱり異なる分野にいた方が「境界」に行けるじゃないですか。それが面白いし、そういうものに憧れがあるんです。

─ちなみに、今読んでいる本は?

tofubeats:長沼伸一郎さんの『現代経済学の直観的方法』です。経済について、ちょっと勉強しなきゃいけなくて読んでいるのですが、めちゃめちゃ面白いですね。僕、ブルーバックスとかああいう新書を読むのが大好きなんですよ。自分の専門外のジャンルを知る上で、新書はものすごく役に立つ。その分野の第一人者による、非常に初歩的な話を聞けるツールだと思うんですよね。今まで興味がなかったジャンルの新書なども、暇つぶしに読むことはよくありますよ。そういう意味では、YouTubeも同様の目的が得られるツールとして活用しています。

─読書以外に視点を変える方法はありますか?

tofubeats:それこそ、今まで毎週末のようにイベントがあったのが急に全てなくなり、「土日に何しようか?」なんて考える余裕が出来たことも結構大きかったです。コロナによって、「忙しくしていなければならない」みたいな固定概念から強引に引き剥がされたことは、結果的に「視点を変える」ことにつながったかな。あとは、いろんな人と話すことですかね。コロナになって、ミュージシャン同士で電話やSkypeなどで話すことも大きな刺激になったと思います。

─仕事が途切れることに対しての不安みたいなものはありましたか?

tofubeats:最初はありました。でも、ありがたいことに6月くらいから「意外とやっていけるかも」と思えるようになってきて。今までずっと、手広くやってきていたことが功を奏したのだと思います(笑)。ただ、現場の人たちや知り合いのお店などでは、相当困っているところもあって。僕としても何らかのサポートはしたいのだけど、それによってお客さんにリスクを負わせることになってしまう場合もあるじゃないですか。そこのバランスをどう取りながら行動すべきか、ずっと考えています。

例えば最近、岡山の『YEBISU YA PRO』というライブハウスを借り切って、僕が主宰しているレーベル「HIHATT」の5周年配信イベントを行ったんですけど、そういった形で自分たちの売上にもつながりつつ、ハコのサポートも出来たらいいなと思っています。


Photo by Mitsuru Nishimura

みずから会社経営、「経済」との柔軟な付き合い方

─会社経営も、音楽とは全く異なる脳味噌を使いそうですけど、トーフさんは自分で向いていると思います?

tofubeats:昔から商売にとても興味があったし、めちゃめちゃ向いていると思います。今は全ての数字が全て自分に関係があるんですよ。会社に勤めていると、誰かが決めた給料を毎月もらっているわけじゃないですか。それはそれで、仕事の内容そのものに打ち込めるメリットもあると思うのですが、僕自身は自分に関係あることだったら全て頑張れるし、当事者意識も高まるんですよね。今やっていることが、全て自分の成果につながっているし、嫌なことがあっても「やらされている感」が全くなく全て自分で意思決定できる。ある意味、気持ちいいというか。だから、独立してからは精神的にも落ち着いています。

─いつかは独立しようと思っていたんですか?

tofubeats:全く考えていませんでした。とりあえず、前の事務所を離れてみたかったんですよ。それで個人事業主としてレーベル契約を結ぼうと思ったら、ワーナーは個人では契約できないということをそのときに知って(笑)。ここで誰かに頼んでしまうと独立した意味がないので、やむを得ず会社を設立した。それが経緯ですね。

─なり行きというか行き当たりばったりというか。

tofubeats:いや、ほんとそれですね。まあ、以前から基本的には「自営業」だったし自ら営んでいるつもりではいたんですけど、会社にしたことで会社から「月給」「年俸」が支払われるようになった。そうすると、考え方も大きく変わりました。例えば、今、社員は自分しかいないのですし、やってることは「音楽を作ってお金をもらっている」ことだから以前と何も変わらないんですけど、「給料を支払っている」ということで意識はだいぶ違います。しかも「会社は自分じゃないからどうなってもいいや」という気持ちを一方で持てるので、それも精神衛生上良い気がします。個人で動いている時よりも、大胆なことができますね。

─ちなみに、会社を運営していく上で影響を受けた人やお手本にしている人っていますか?

tofubeats:Vestaxの創業者、椎野秀聰さんかな。初めて会ったその日に「会社を再起動するから取締役にならない?」って言われたんですよ(笑)。ちょうど自分の会社が走り始めたばかりの頃だったので、さすがに断りましたが「この人、やばいな」と思いましたね。自分の意思決定一つで組織をぶん回せるところに憧れます。あとは、黒鳥社(元『WIRED』日本版編集長)の若林恵さんとか。「勉強なんて、やって当たり前だろ」とあの歳でも言えてしまうのはすごいなあと思いますね。椎野さん、若林さんみたいな人になりたいです。


Photo by Mitsuru Nishimura

一緒に考えて解決策を導き出す

─ご結婚されたことで、Rethinkされたことも多いのではないかと。

tofubeats:まだ新婚なので偉そうなことは言えないのですが(笑)、夫婦としてそれなりに「ちゃんとしなきゃいけない」とかそういう意識も生まれてきました。何かあったら御礼や御祝を贈らなければいけなかったり、字は綺麗に書けた方が良かったりして。これまで、そんなこと考えたこともないですけど……レベルが低すぎますね。

─あははは、そんなことはないです。

tofubeats:あと、これはGraphersRockの岩見(民穂)さん(tofubeatsのアートワークを手がけるグラフィックデザイナー)に何年か前、「結婚って何がいいんですか?」と聞いたことがあって、その時に言っていたのが「人生が一人プレイから二人プレイになることだ」と。

─「一つの目標に向かって二人で進んでいく」ということですよね。とてもいい喩えです。

tofubeats:そうなんです。「養う」とか「責任を持つ」とかではなくて、相互作用というか。取り組むべき課題、晩ご飯を食べるでも何でもいいんですけど、一緒に考えて解決策を導き出す感覚……付き合っている時と、別に何も変わっていないつもりですが、「夫」という属性が付くだけでこんなにも自分の考え方が変容していくのは面白いなあと。

そういう意味ではコロナ禍での自分の考え方もそうですね。2020年は「変容」を迫られた1年というか。改めて自分と人は違う生き物だし、それを織り込んだ上で考えていかなきゃいけないということを、否応もなく意識させられた年でした。


Photo by Mitsuru Nishimura

「よりよい良い明日」を生きるためのプレイリスト


─さて、今回はトーフさんにプレイリストを作っていただきました。「Rethink」とともに「世代間の交流」もテーマの一つになっているように思ったのですが、どうやって作成していきましたか?



tofubeats:あまりアゲアゲではなく、じっくりリスニング出来る曲を中心に集めていきました。KIRINJIはこの曲と、「時間がない」という曲で悩んだんですよ。この2曲が入っている『愛をあるだけ、すべて』は、未来について歌った歌が結構入っているアルバムなのでテーマにぴったりでした。“明日よりマシな生き方したいね”という歌詞も、まさに変容を迫られているおじさんの歌ですし(笑)。サウンドはめちゃめちゃイケてるっていうギャップも面白いです。

似たような曲だと、スティーヴ・アーリントンの「Keep Dreamin’」。80年代にめちゃくちゃ売れていたスレイヴというバンドのリード・ヴォーカルで、最近Stones Throwから出たアルバム『Down to the Lowest Terms: The Soul Sessions』は、レーベルの若手が曲を作ってこのおじさんが歌うという、まさに新旧の世代が一緒に新しい音楽を作っている感じがいいなと思いました。「Rumors about paradisaeidae」は、speedometer.さんという関西の大御所電子音楽家と浦朋恵さんが、metomeさんという若手を誘って作った曲で、これも「新旧世代の交わり」といえますね。

─特に思い入れの強い曲は?

tofubeats:テーマにとても合っていると思ったのはOMSBさんの「Think Good」。後ろ向きだった自分の考え方を「変えなきゃ」と発破をかけている、めちゃくちゃいい曲なんですよ。あとは曽我部恵一さんや坂本慎太郎さん、コーネリアスさんのような、僕よりもずっと上の世代の人たちの「憂いのあるポジティブさ」も大好きですね。曽我部さんの「花の世紀」とかめちゃくちゃいい。

─そしてとびきりクレイジーなのが、ステレオラブがリミックスした広末涼子の「明日へ」です。

tofubeats:この曲を初めて聴いたのは確か高校生の頃だと思うのですが、リリースから10年経っても記憶から消えない衝撃のリミックスです(笑)。でも、なんかすごく好きなんですよね。


Photo by Mitsuru Nishimura

次の世代と人生の選択について思うこと


─ピチカート・ファイヴの「子供たちの子供たちの子供たちへ」やコーネリアスの「未来の人へ」は、自分が死んだ後の世界に想いを馳せているわけですが。

tofubeats:(坂本慎太郎の)「小舟」も現世っぽくない感じがありますよね。僕自身は視野が狭窄しているので(笑)、こういう視点はとても憧れます。

─「未來の子供たち」まではいかなくとも、自分より下の世代のことを考える機会は増えてきましたか?

tofubeats:まだ30手前なんですが(笑)、年齢の割には考えている方だと思います。なぜかというと、自分が16歳くらいの頃からずっと目上の人に可愛がってもらっていたから。今、自分がこうしていられるのも、なんやかんやいって色んな方々にお世話になっているからですしね。とは言え、若者の活動に「介入」していくのはあまり好きじゃないので、とりあえず仕事を振ってあげたりお金をあげたりすることくらいしかできないんですけどね。

ただ、それは別に「しなきゃ」というよりは「してもらったので当然」というか。そうしなきゃ上の人たちに迷惑をかけると思うんですよ。「お前もちゃんとやれよ?」ということだったと思いますし、結局それは巡り巡って自分のためというか。自分が得するためにもしておいた方がいいと思っています。自分が好きな音楽を応援すれば、それだけ聴きたい音楽が周りに増えていくわけだから最高じゃないですか(笑)。

─ECDの「The bridge」もいい曲ですよね。「ここから先は、もう後戻りできないぞ」という瞬間って人生の中であると思うんですが。

tofubeats:それこそ30超えてミュージシャンとか「この先マジでどうすんの?」って未だに思います。もちろん、今は充分食べていけてるんですけど、大学生の頃の自分は今の生活を1ミリも想像していなかったし。なんか、どうなるか分からないんだなと人生の節々で実感として突きつけられますよね。会社を作る時にもそれは思いました。「俺は就職すらしたことないのに社長になるのか」って(笑)。大学生の頃とか、ベンチャー企業を立ち上げてた同級生のことバカにしていたのに、今や正真正銘のベンチャーですからね。

─(笑)。

tofubeats:会社を作ったのも、最終的には「自分がラクしたいから」なんですよ。前の事務所を辞めて、自分たちで責任を取って、休みたい時にはお金がもらえない代わりに休めるじゃないですか。そうやって全て自分たちで決めたかったんです。決めることは人よりも慣れていますから。ただそうなると、結果的に会社を立ち上げるしかないという皮肉な状況になっていたという(笑)。しかも、それが今のところ人生で最も調子がいいので、きっと向いていたのでしょうね。


Photo by Mitsuru Nishimura

目の前のことに取り組めば、世界は変わる

─プレイリストの最後に、ご自身の楽曲「Don’t Stop The Music」を入れたのは?

tofubeats:自分の楽曲の中で、唯一今回のテーマに合う曲だなと思ったんですよね。なぜかというと、自分がメジャーデビューするときに「1stシングルは一生やることになるから、一生やる曲にしよう」と思っていたんですよ。

─そんなこと考えていたんですか。

tofubeats:なので、自分が折れそうになった時に心奮い立たせてくれる曲にしたかったんです。「そうか、Don’t Stop The Musicだよな」って(笑)。まあ、この曲を作った時は締め切りギリギリで、連日フローリングの床で寝ながら「このままじゃクビになる……Don’t Stop The Music……!」という気分で作ったんですけどね。

─(笑)。では最後に「よりよい良い明日」のヴィジョンを持つための秘訣を教えてください。

tofubeats:やっぱり、目の前のことをやることじゃないですかね。そうすれば勝手に変わっていくというか。さっきの話じゃないですけど、10年前はこうなると思ってなかったけど、自分で決めたり、音楽をいい感じで聴いたりするための方法を探していくうちにこうなったので。おそらく変容は後からついてくるというか。

─とにかく考えるより先に動くことが大事なのかもしれないですね。

tofubeats:動いていたら「攪拌」されるというか、見えざる手によって適当なバランスが働くんじゃないかなと。止まっていると淀んでしまうのかなとも思います。


「Rethink PROJECT」





視点を変えれば、世の中は変わる。これまでにない視点や考え方「Rethink」を活かし新しい明日を創るべく社会課題と向きあうプロジェクト。

地域社会が直面している課題に対して、問題意識や解決の意志を持つ方々とパートナーシップを組み、共に考え、共に行動。そして、「Rethinkする」ことで、世の中に存在する様々なモノ・コト・ヒトの価値を認め、お互いを尊重し、理解し合う社会の実現を目指す。

公式サイト:https://rethink-pjt.jp/

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