OPN、ザ・ウィークエンド、サフディ兄弟、『TENET』 奇才たちが共有するポップカルチャーの時代精神

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティン(Photo by David Brandon)

 
「OPN」の呼称で知られるワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、2年ぶりのニューアルバム『Magic Oneohtrix Point Never』をリリース。近年もザ・ウィークエンドとのコラボや映画のサウンドトラックで存在感を示してきた奇才は、架空のラジオ局というコンセプトを掲げ、集大成との呼び声が高い本作でどのようなアプローチを見せているのか。新進気鋭の批評家、伏見瞬が考察。


エイベル・テスファイ、ラジオ、スマッシング・パンプキンズ

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下、OPN)ことダニエル・ロパティンは、電子音楽の「未知の可能性」を体現するアイコンというよりも、今やアメリカのポップカルチャーで中心的役割の一端を担う存在となっている。



OPNの新作『Magic Oneohtrix Point Never』にはエグゼティブ・プロデューサーとしてエイベル・テスファイ、つまりザ・ウィークエンドの名がクレジットに刻まれている。ザ・ウィークエンドは今年3月に通算4枚目となるアルバム『After Hours』を発表し、4週連続でビルボードチャートの1位を獲得。10月30日現在、Spotifyの月間リスナーランキングでも世界2位(1位はジャスティン・ビーバー)となっており、今最もポピュラーなミュージシャンの一人と言える。

ザ・ウィークエンドとOPNを繋いでいるのはサフディ兄弟監督のNetflix配給映画『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)。サフディ兄弟の前作『グッド・タイム』(2017年)に引き続いてロパティンが音楽を全面的に担当した作品である。この映画にザ・ウィークエンドは本人役で出演し、クラブで主演のアダム・サンドラーに殴られて出血するというなかなかにオイシイ役回りをこなしている。映画での「殴られる男」としてのイメージは、『After Hours』の鼻血を流して笑うジャケットに反映された。『After Hours』にはOPNもプロデューサーとして2曲(「Repeat After Me」と「Until I Bleed Out」)に関わっている。エイベル・テスファイとダニエル・ロパティンとサフディ兄弟は密接な関係性の中で、それぞれが濃厚な作品を発表しているようだ。




ザ・ウィークエンドのスタイルはたしかに『Magic Oneohtrix Point Never』からも感じられる。フワッと広がる丸っこいベースサウンドと煌びやかなシンセの組み合わせは『After Hours』とかなり近い。そして、何よりセンチメンタルなムードが似ている。直線的なニューウェーブソング「I Don’t Love Me Anymore」やザ・ウィークエンド自身が甘い声で歌うバラードポップ「No Nightmares」の、苦く切ない感じは今までのOPNにはなかった。このアルバムを聴いて最初に連想したのは、スマッシング・パンプキンズの『Machina: The Machines of God』(2000年)だった。90年代にオルタナティブ・ロックの雄としたスターダムにのし上がったバンドが、解散前に出した最後のアルバムである(その後再結成)。このアルバムで彼らは、自らのルーツであるゴスとニューウェーブのサウンドを丸出しにした。おそらく、やけっぱちでもあったのだろう。自分たちのできることはやり尽くしてしまった感、スターになったせいで無感覚に陥ってる感が、『Machina』のノスタルジックなムードから伝わってくる。ザ・ウィークエンドも『After Hours』で80年風のシンセポップに乗せて、名声の中のアパシーを歌にしていた。そして、OPNの新作にも、虚しさや疲労感のフィーリングが漂っている。

『Magic Oneohtrix Point Never』から漂うセンチメンタリズムは、「未知の可能性」ってやつをウソでも提示しなくてはいけない役回りを押しつけられたロパティンのとまどいや苛立ちと、どこかリンクしているかのようだ。上記した曲タイトルを訳せば「僕はもう僕を愛していない」、「もう悪夢はごめんだ」ときている。『天空の城ラピュタ』のテーマ「君をのせて」を壊れたAIに演奏させたかのような、異様にメランコリックなラストナンバーのタイトルは「Nothing’s Special」。つまり「特別なものなんて何もない」。




スマッシング・パンプキンズを連想した理由がもう一つある。『Machina』に収録された「I Of The Mourning」という曲のリリックは「ラジオ、僕の好きな曲をかけてくれ」から始まる。行き場のない状況の中で、ラジオの音楽に慰めを求める様を描いた楽曲である。『Magic Oneohtrix Point Never』も「ラジオ」をモチーフにしている。アルバムタイトルはマサチューセッツのラジオ局「Magic 106.7」をロパティンが聞き間違えたことに由来しており、そもそもOneothrix Point Neverというアーティスト名自体、この聞き間違いから取られたものだ。アルバムの冒頭と途中にはラジオのジングルとトークを模したトラックが収録されており、全体が一つのラジオプログラムを構成している。ラジオという装置がノスタルジックな逃げ場所になることを考えれば、アルバムのコンセプト自体にセンチメンタリズムが宿っていると言えるだろう。

しかしながら、「ラジオ」のコンセプトはセンチメンタルな要素だけに還元できるものではない。『Magic Oneohtrix Point Never』には、疲労感やノスタルジーの中から新しいなにかが芽生えてくるような、生々しい蠢きが宿っている。この蠢きは、2020年のポップ・カルチャーを代表する別の作品にも感じられるものだ。

 
 
 
 

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