ブルース・スプリングスティーンの名曲ベスト40選

7位→5位

7位 「アトランティック・シティ」/『ネブラスカ』(1982年)収録



『ネブラスカ』から、筆者はブルース・スプリングスティーンにはまった。シンプルでダイレクトな楽曲は、聴いていて心地よかった。そしてストーリーにもとても興味を惹かれた。楽曲「ネブラスカ」は、歌詞の最初の部分を聴いただけで、その世界に引き込まれる。

2004年の我々アーケイド・ファイアのアルバム『フューネラル』は、いつでも聴いていたいという類のレコードではない。ある意味で『明日なき暴走』のように、聴くにはある程度の覚悟が必要だ。一方で『ネブラスカ』は、バックグラウンド・ミュージックにしてもいいし、じっくり聴き込んでもいい。常に集中して耳を傾けている必要がない。バンドが大音量でガツンとやってくる訳でもない。こっそり忍び寄ってくる感じだ。

特に「アトランティック・シティ」は傑作だ。ポップな曲調がストーリーを際立たせている。いつの間にか曲に合わせて口ずさんでしまう。そこがポイントなのだ。さらに、「ベイビー、ストッキングを履いたほうがいい。夜は冷えるから」など、普通のポップソングでは決して言わない。こういった細かい点にも注目すべき点がある。しかしここが傑作たる所以だ。

ロックンロールや作り出すサウンドには、ある程度の制約がある。しかしストーリーは無限だ。このアルバムはストーリーが中心で、音楽がそれを際立たせている。
Text by Win Butler of Arcade Fire(ウィン・バトラー/アーケイド・ファイア)

6位 「裏通り」/『明日なき暴走』(1975年)収録



ローリングストーン誌による『明日なき暴走』のアルバム・レビューでグレイル・マーカスは、「裏通り」のイントロで聴けるロイ・ビタンによる滝のように流れるピアノがとても美しい、と評している。「ロックンロール版の叙事詩『イーリアス』の前奏曲と言える」とマーカスは表現した。この曲に関しては、スプリングスティーンが70年代初めに付き合っていたダイアン・ロジトをモデルにしたとか、親しい男性との別れの話(曲の捉え方によっては同性愛的な雰囲気も感じられる)など、多くの解釈がなされている。スプリングスティーンは、“テリー、一緒に見た映画を覚えているかい/映画に出てくるヒーローのようになりたくて歩き方を真似たな”という物悲しいイメージと、60年代半ばのボブ・ディラン(特に「ブロンド・オン・ブロンド」スタイルのオルガン)を彷彿とさせる音楽とを対比させている。この曲には、個人的な深い意味も込められている。長年アシスタントを務めたテリー・マゴヴァーンが亡くなった2007年には、スプリングスティーンはこの曲をよくプレイした。また2008年にオルガニストのダニー・フェデリチがこの世を去ってから初めてのコンサートで、Eストリート・バンドがオルガン抜きでこの曲を披露した。「『裏通り』に合わせて皆がウィスキーのグラスを掲げ、一緒に歌った」と、ベスト・コーストのベサニー・コセンティーノは言う。「本当に皆が一体になった」

5位 「ザ・リバー」/『ザ・リバー』(1980年)収録



スプリングスティーンの楽曲に登場する悲劇キャラクターの多くは、フィクションだ。しかし「ザ・リバー」に出てくるティーンエイジのカップルは、自らの体験に基づいている。彼の妹のジニーは18歳で妊娠し、直後にお腹の子どもの父親であるミッキー・シェイヴと結婚した。ミッキーは家族を養うため、建設現場で働いた。「70年代後半の彼らは、とても厳しい生活を送っていた。今の多くの人々と同じだ」とスプリングスティーンは、2009年に行った『ザ・リバー』の全曲コンサートで語った。彼は妹夫婦の経験を、感動的な労働者階級の嘆きのスローバラードに仕上げた。エンディングのハーモニカのパートは、まるで葬送歌のように聞こえる。「ザ・リバー」は、ニューヨークのパワー・ステーション・スタジオでEストリート・バンドと共にレコーディングした直後、1979年9月に行われた『ノー・ニュークス』コンサートで初披露された。彼の妹も会場にいたが、まさか自分のことを歌った曲だとは知らなかったという。「歌詞の内容は詳細に至るまで事実よ」とジニーは、スプリングスティーンの自叙伝の著者ピーター・エイムズ・カーリンに証言している。「私の全てが曝け出されたから、初めはあの曲が嫌いだった。でも今はお気に入りの1曲よ」と語った。ジニーとミッキーは今も幸せな結婚生活を続けている。

Translated by Smokva Tokyo

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