アイス・キューブがトランプ陣営に協力、本人が明かすその真意

アイス・キューブ(Photo by Kevin C. Cox/Getty Images)

アメリカ大統領選が11月3日に迫るなか、アイス・キューブが「トランプ陣営と手を組んだ」として批判を受けている。だがラッパー本人は、黒人アメリカ人を救ってくれるなら誰とでも話し合うと釈明。このヒップホップのレジェンド兼活動家は、これまでの信頼を失うリスクも覚悟の上で、いったい何を得ようとしたのか?


アイス・キューブが8月末――現在進行中の世界的な市民権運動が勢いを増していたころ――に発表したContract With Black America(黒人アメリカ人との契約書)の序文で、経済学者のダリック・ハミルトン教授はこの活動の達成目標を22ページにわたる書面にしたためた。世界中で起きている活発な動きに勢いを得たハミルトン教授は、「おそらく若者世代や社会運動は、倫理、博愛、持続可能性の原則を受け入れるような形で経済を再定義するだろう」と述べ、「共栄を推進し、人種間の経済的平等を達成する愛国者主義的な道筋、それがこのContract With Black Americaだ」と記した。

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もしこれが本当に「Contract」の定義なのだとすれば、果たしてドナルド・トランプ大統領や彼の選挙陣営が興味を持つだろうか? もっと言えば、キューブがトランプ陣営と話し合いを望む必要がどこにあるのだろう?

トランプ大統領側の理由は理解できる。ひとつには、体面をよく見せることができる。大統領は(COVID-19による)疫病を野放しにし、他のどの集団よりも猛スピードかつ広範囲でアメリカ国民の命を奪いつつ、同時に安全対策を軽んじてきた。彼の政策とは何の関係もないのに、黒人の失業率が下がったとうそぶき、人種間の格差には目もくれず、政権に好き放題させて差別を悪化させた。「人種差別ではない」というメッセージを白人有権者に届けるためなら、トランプ陣営がヒップホップ・レジェンドの意見を支持したとしても不思議ではなかろう。たとえ子供のころに聞いたであろう楽曲のラップや歌詞が、公共の場で口にするのは憚られるものだとしても。「プラチナ・プラン」――10月にトランプ大統領が発表した人種差別改革項目リスト(※)の微調整に役立つなら、ヒップホップのレジェンドを歓迎しても損はないのでは?

※黒人コミュニティ支援に5000億ドル(約52兆8000億円)を投じて300万人の雇用を創出し、医療・教育面での格差解消に取り組む、KKKとアンティファをテロ組織に指定する、リンチをヘイト犯罪と見なすといった内容

「プラチナ・プラン」は、あまりにも多くの候補者が掲げてきた曖昧模糊とした政治目標や行動計画とまるで瓜ふたつ(「長きにわたる医療格差を排除する」――自分たちでオバマケアをつぶした後に、まさしく奇跡的な話)。トランプ大統領が心底黒人に配慮していたなら、最初の任期で実現できていたようなことばかりだ。

しかし、これこそキューブが取材で言わんとしたことだった。民主党・共和党いずれも黒人層への配慮が不十分で、黒人コミュニティや地方自治体に金を落とそうともしない。今こそ黒人アメリカ人は真剣に考えるべきだ、どちらかの政党が解決してくれるだろうとタカをくくる余裕はない、というのが彼の考えだ――とくに共和党がホワイトハウスを牛耳っている限りは。「友人なら、こうした流れを変えてくれるだろうと思ったんだ」。ローリングストーン誌にキューブはこう語った。「だが今、俺たちは瀬戸際に立たされている。経済支援や補助金がどこから湧いてくるかもわからない状態だ」

「協議をめぐる一連の騒動は、本当に勘弁してくれ」とキューブ――今年6月、それほど離れていない後ろのほうに反ユダヤ的な画像が映ったツイートを投稿したことで、ひと悶着起きたあの騒動だ。「キリストは権力者と謁見した。モーゼは権力者と暮らしていた。だとすれば、俺たちも権力者と話をするべきだろう」

彼が話し合いの場を持ったのはトランプ陣営だけではない。彼はジョー・バイデン陣営の代表とも協議した。だがトランプ大統領顧問のカトリーナ・ピアソン氏が10月14日、キューブが「@realDonaldTrump政権との提携に積極的で、#プラチナ・プラン策定に協力的だ」と得意げにツイートしたために、彼にも火の粉が降りかかってしまった。

Translated by Akiko Kato

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