トランプ大統領も偏愛、謎の女性記者とニュース専門局の正体

「彼女にはTVレポーターとしての素質が備わっている」

それ以前の彼女の職歴は非常に乏しい。LinkedInのアカウントによれば、2014年にCloverstone Publishingという小さな出版社で主任編集者として入社している。だが詳しく調べてみると、同社の創業者は姉のチャニングで、唯一の出版物は『Lamonga: River of the Seven Spirits(原題)』という冒険物語のみ。しかも作者は父親のダン・ライアンだ(もっとも本当に誰が書いたのかは定かではない。兄のバロンは、ボーイスカウト時代に自分が描いたと主張している)。

リオン氏の実績不足に、多くの人々は首を傾げた。実経験の乏しい人間が、どうしてホワイトハウス特派員という花形ポジションをつかめたのか? OANの元ホワイトハウス特派員だったニール・マッケイブ氏は、彼女の婚約者をOANに見学に誘ったのがきっかけで、彼女を局に紹介したとローリングストーン誌に語った。局が週末のホワイトハウス特派員を探している、とマッケイブ氏が漏らしたのを聞いて、サイクス氏がシャネルを推したのだ。さっそくスクリーンテストを行ったところ、ジャーナリストとしての実績がないにも関わらず、彼女はずばぬけていたとマッケイブ氏は言う。「優秀なジャーナリストは大勢いますが、カメラ目線やカメラ映りに関しては全く素人です」とマッケイブ氏。「彼女にはTVレポーターとしての素質が備わっていたようですね」

OANでの活動は幸先のいいスタートではなかった。リオン氏は10月に、アンドリュー・マッケイブ元FBI副局長とFBIの弁護士リサ・ペイジ氏の不倫疑惑を報じたが、彼女の報道はその後何の説明もなく撤回され、YouTubeからも削除された。OANの別の特派員プロビエク氏が、同局は問題の記事を撤回したという声明を発表した(OANとチャールズ・ヘリング社長にそれぞれコメント取材を依頼したが、返答はなかった)。だがルディ・ジュリアーニ氏を題材にした3部構成のウクライナ調査記事――ジョー・バイデン氏がウクライナと裏でつながっているという陰謀論の焼き直し――は一部の右派ブログで拡散し、そのおかげで彼女はOANの期待の星という評判を不動のものにした。2020年上旬、ホワイトハウス特派員のエメラルド・ロビンソン氏がOANからNewsmaxへ移籍すると、シャネルが後任に抜擢されるのは「自然な流れだった」とマッケイブ氏は言う。

ちょうどこのころから、リオン氏は世間の注目を集めるようになった。ホワイトハウス記者協会から出入り禁止を食らったため、もはや記者席に座ることはできないが、トランプ政権は彼女を記者会見室の後方に立たせることを許可した。そうした彼女の立ち位置に加え、マスク着用を拒んだことで、彼女はさらに注目されるようになった、とファーリ氏。記者会見室に集まった限られた記者の中で、マスクを着用しない人間は「まったくいないわけではないが、珍しい」からだ。こうした意味でも、COVID-19パンデミックはリオン氏にとって棚からぼたもちだった、とカルソーネ氏も言う。「非常に奇妙な話ですよ、記者席に座ることを許されない記者が、(リオン氏とトランプ大統領の)共存関係のおかげで、大統領が登壇するたびに質問させてもらえるんですから」と彼は言う。「COVIDに対するあらゆる変化に付け込んで、彼女は本来なら得られなかったであろうチャンスを手にし」、主流メディアに紛れて自分の居場所を維持した。従来のルールに堂々と背きながら。

確かに、リオン氏の立ち居振る舞いはいかにもトランプ大統領に媚びるために仕込まれたかのようだ。FOXニュースのキャスターのような髪型に始まって、穏やかな語り口と物腰、ヴェルサーチのスカーフ、ニーハイブーツ、厚塗りながら趣味のいいアイメイクにいたるまで、「彼女の容貌は、いかにもTV向けなホープ・ヒックス(元モデルで、トランプ政権初期のホワイトハウス広報部長)風です」とカルソーネ氏。ヘリング社長も、彼女を記者会見室に据えることで、大統領の関心を得られる女性レポーターを世間にアピールできることをよく理解している。

Translated by Akiko Kato

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