トランプ大統領も偏愛、謎の女性記者とニュース専門局の正体

煽動はせず、ひたすら「宣伝」に務めるのがリオン氏の特徴

ある意味で、リオン氏はワシントンDC界隈ではすっかりおなじみの存在だ。ミズーリ州上院議員選の元候補者で、スティーヴ・バノン派を自称する美男子カートランド・サイクス氏と婚約中。トレンチコートにひざ丈のタイトドレス、ダブルのブレザーと、正統派ながらセンスのいいファッションは、こてこてアイメイクにハイライトを入れた髪のミレニアル版ナンシー・レーガンといったところだ。ドナルド・トランプ・Jr氏やルディ・ジュリアーニ氏といった著名人と一緒の姿を定期的に報じられている。中には、ジュリアーニ氏が今しがた爆笑もののジョークを飛ばしたかのように、頭をのけぞらせて笑う姿が映っている。

とはいえ、トランプ大統領と同じくリオン氏も自らをアウトサイダーと位置付け、よく訓練された狩猟犬なみ嗅覚で、秘密結社や陰謀論と思わしきネタを掘り起こす。ホワイトハウス記者協会を「敵対勢力のプロパガンダを繰り返し」トランプ政権を貶めようとする「秘密結社」とみなし、コロナウイルスの発生源はラボだという陰謀論(たびたび間違いを指摘されている、根も葉もない嘘)を広めている。COVID-19記者会見に関する彼女のツィートは、大統領に都合のいいデータが頻繁に登場する。ごく最近では、手の込んだトランプ派の陰謀論Qアノンを大絶賛し、報道ネットワークPatriots’ Soapboxで「Qが匿名なのは理由があってのこと、それもこの上なく素晴らしい理由のためです。世間はそれを尊重するべきだと思います」と発言した。彼女があまりにもトランプ軍団の常連と化しているため、FOXニュースのビル・オライリー氏でさえも、公平性に欠けると彼女を批判した(「トランプ支持派を標榜するあなたが、なぜ特派員を務めているのです?」と、同氏はインタビューで彼女に尋ねた)。

リオン氏はジャーナリストというよりむしろ評論家、評論家というよりも追っかけ、追っかけと言うよりも政権の宣伝係だ。「彼女とOANは、頼りになる忠実なTV局を切望するトランプ大統領が生み出したようなものです」と、ワシントンポスト紙でメディア批評を担当するポール・ファーリ氏だ。同じOANのジャック・ポソビエク特派員、さらに右寄りのマイロ・ヤノプルス氏やアン・コールター氏といった評論家とは違い、彼女はかの民主党連中を揶揄して悪目立ちすることはない。FOXニュースのローラ・イングラハムとは違って、人種差別的な警鐘を浴びせたり、Black Lives Matter運動の脅威に牙をむくこともない。「彼女は非常に洗練されたプロフェッショナリズムを慎重、かつ意図的に見せています。政治的に偏っているのは明らかですが、扇動的ではありません」。メディアを監視するNPO団体Media Matters for AmericaのCEO兼会長のアンジェロ・カルソーネ氏もこう語る。彼は入社以来リオン氏の動向を追いかけている。「彼女の売りは、積極的に絡んだり、けんかを吹っ掛けたりすることではありません。彼女はトランプ大統領、そしてトランプ陣営の広報宣伝係という立ち位置を打ち出しているのです」

Translated by Akiko Kato

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