夏目知幸が語る、シャムキャッツに捧げた青春とこれから先に広がる景色

解散発表の日、夏目が向き合っていたもの

そんなふうに語る夏目だが、ロック特有の「男らしさ」には馴染めない部分もあったようだ。彼の歌詞には何度かタバコが登場してきた。2011年の楽曲「気をつけて」に出てくる、“お酒とたばこと愛しのガール 続いていくこういうリズム ロックンロールはこれを歌わなきゃならんと相場は決まってる”という一節について尋ねると、彼は思うところを聞かせてくれた。

「そういう世界観も好きだけど、自分はそういったタイプじゃないとも思う。酒やタバコは好きだけど、やっぱり革ジャンとか着れないし、ソフィア・コッポラの映画も観ちゃうみたいな(笑)。それこそ、10年前は自分がどういう人間なのか正直わからなかったけど、ここ2~3年くらいかな。自分は男臭いけど女の子っぽいものも好きだし、かっこよくてハードな男性像よりも、どっちかというと可愛いと思われたいし、髪もピンク色にしたい。『別にそれでよくない?』と思うようになった。でも昔は、それもきっと許されなかったんだよね」


Photo by Mitsuru Nishimura

たしかに、この10年間で何もかも変わってしまった。ジェンダー観や音楽シーンの景色もそうだし、かつての彼はバンドがここまで成功することも、このタイミングで終わってしまうことも想像できなかったはずだ。解散がアナウンスされた6月30日の午後1時ごろ、夏目は映画館で『もののけ姫』を再見しながら、男性の生きづらさについて思いを巡らせていた。それはそのまま、自分の将来と向き合うことでもあった。

「主人公のアシタカって、周りに振り回されるだけで何もできないんですよ。『どっちの味方なんだ!』って詰められても、人間ともののけ双方が生き残るべきじゃないかと自問自答を続けるだけ。彼みたいに、男たちが作ってきたルールがまだ根強い社会の中で、そこにいたくないのに巻き込まれてしまう男もいる。とにかく男性は一度、何も言えなくなるまでコテンパンにやられた方がいいと思いますね。それと同じようなことは自分自身にも思う。バンドがなくなって、やりたいことや言いたいことがなくなって、もっともっと絞り出して、マジでなくなった時に、ようやく何か出てくるかもしれない。そこからまた勝負が始まる気がする」

シャムキャッツの物語は、10月21日に発売されるベスト・アルバム『大塚夏目藤村菅原』で一旦完結となる。バンドと並行して弾き語り活動をしてきた夏目は、クラブ・ミュージックへの傾倒からモジュラー・シンセを導入し、言語学への関心を深めるなど、新しい領域にも足を踏み入れているところだ。第2の人生をどんなふうに歩んでいくのか気になるところだが、どれだけ困難が待ち受けていようと、彼ほどの人間力があれば「なんだかやれそう」ではある。

撮影協力:桜丘カフェ






『大塚夏目藤村菅原』
シャムキャッツ
TETRA RECORDS
10月21日発売
http://tetrarecordsshop.jp/?page=1

夏目知幸
1985年、千葉県生まれ。メンバー全員が高校3年生のときに地元浦安で結成したロックバンド、シャムキャッツのVo&Gtを担当。2016年に自主レーベル「TETRA RECORDS」を設立し、2018年にはフジロック・フェスティバルに出演。これまでに5枚のアルバムをリリースし、2020年6月30日に解散を発表。10月21日にベスト・アルバム『大塚夏目藤村菅原』の発売を予定している。夏目自身は弾き語りなどソロ活動も積極的に行っており、解散後も自身の音楽を追求していくとのこと。





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