マライア・キャリーが密かに制作した「グランジ・アルバム」と歌姫の知られざる素顔

まっすぐなオルタナロックへの憧れ

マライア自身が回顧録で書いている通り、この企画の大部分が基本はパロディの発想のうえに成り立っている。しかし同時にまっすぐなオルタナロックへの憧れも見つかる。彼女が曲の着想を得ていたのは、スリーター・キニーやL7、グリーン・デイといったバンドたちだ。シャペルによれば、特にグリーン・デイの『ドゥーキー』は当時の大のお気に入りでもあったらしい。




自分の“陰気な黒髪ゴス少女”キャラに命を与えるべく彼女は、メインヴォーカルに関してはブースで少し声を変えて歌い、そのうえに友人であるクラリッサ・ダナ・デイヴィッドソンの歌唱を重ねるという手法を採った。バックコーラスの方はその夜スタジオで見つかった誰も彼もが駆り出されていた。

「事務所の人間とかスタジオの人間とかだよ。彼女は廊下の先まで駆けていって誰かしら見つけてくると、引っ張ってきてコーラスを歌わせるんだ。音程が合っていようがいまいが気にしなかった」。シャペルはそう証言する。

回顧録中でマライアは、このロック方面への探検には「個人的に非常に満足した」とも書いている。シャペルは彼女がこのアルバムに日の目を見せたいと心から願っていたことも覚えていた。ソニーも比較的簡単にこれに応じ、同じ1995年のうちに、あまり目立たないようにしつつも、これをチックのデビューアルバムとして発売した。ミュージックビデオも作られたのだが、シャペルはこの制作費はおそらくマライアが自分で賄っていたと信じて疑わない。最終的に仕上がったアルバムでは、デイヴィッドソンの歌の方がメインの位置にミックスされ、映像でも彼女が主役を務めている。YouTubeやほかのストリーミング配信でまだ見つかるはずである。

マライアはこのチックの秘史を暴露した翌日(9月28日)に、「実は今、私のヴォーカルをメインにしたヴァージョンを世に出そうと思ってがんばってるのよ」ともつけ足した。近い将来、本来の姿のチックが登場するだろうと確約してもいる。“ロックスター”マライアと同じ部屋にいてその姿を確かめた一人としてシャペルは、これを聞いて素直に喜んだという。

「あれは素晴らしい作品だと思っているんだ。彼女がとうとう真実を明らかにしてくれて嬉しく思う。人々に別次元のマライアを見せてくれる気になったことについても同じように感じている」


【関連記事】
●マライア・キャリー、心を揺さぶる感動パフォーマンス15選
●「グランジ」史上最高のアルバム50選

From Rolling Stone US.

Translated by Takuya Asakura

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE