ビートルズ最後の傑作『アビイ・ロード』完成までの物語

ザ・ビートルズ(Photo by Hans J. Hoffmann/Ullstein Bild/Getty Images)


「これが最後になる」と思いながら作っていた

ジョンの「ビコーズ」の収録が始まったのは8月1日。これはアルバムに収録される最後の新曲でもあった。同曲の三声コーラス部は、バンドのヴォーカリストたちがいかに素晴らしかったかを物語る好例の一つである。その先の3週間はオーバーダブと編集、そして仕上げの作業に費やされた。8月5日にはジョージが巨大なムーグシンセサイザーをスタジオに運び込んでおり、これによって、彼自身なりあるいはポールなりジョンなりが、幾つかの曲に、同楽器のすぐにはこの世のものとも思えないような響きを加味することが可能になった。

あの象徴的なジャケットのための写真撮影が行われたのは8月8日。ロンドンにしてはずいぶんと暑い日だった。ポールが裸足になっていたのはこのせいだったということも十分にあり得よう。ここまでの歳月、それこそ何千という単位の時間を過ごしてきたであろうスタジオに背を向けて歩き去っていくビートルたちの姿がフィルムの上に固定された。

アルバムでの曲の並びもまた、これが最後の作品になるだろうという示唆を、バンドから半ば無理やりに引き出したような形となった。実は当初の予定では、曲順は今私たちが知っているものとは逆となる可能性もあったのだ。しかし最終的にA面があの、黙示録を思わせさえする「アイ・ウォント・ユー」の突然の中断で終わることになり、B面の方は長大なメドレーとそのアンチコーダ(非後奏)ともいうべき「ハー・マジェスティ」で幕を閉じる形と定まった。かくして『アビイ・ロード』の両面はそれぞれ、答えなど与えられぬまま唐突に終わりを迎える今の姿と相成った。バンド自身の終焉もまた、明らかに目前に迫っていた。問題はそれがいつかということだけだ。

「実に幸せなレコードだよ」

ジョージ・マーティンは後に本作についてこう回想している。

「誰もがこれが最後になるのだなと思いながらやっていた。だからこそあれは幸せな一枚になったんだ」

Translated by Takuya Asakura

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