街に捧げる愛の告白、現代にふさわしい名作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』に出演したジミー・フェイルズ(写真右)とジョナサン・メジャース(写真左) 撮影:Photo: Peter Prato Courtesy of Sundance


ジミーとモントは、ハンターズ・ポイントの窮屈な区画に建てられた家でモントの祖父(ダニー・グローヴァー)と同居している。だが、ジミーにとってのホームはフィルモア地区にあった。威厳に満ちたその家は、地元の言い伝えによると「サンフランシスコで最初の黒人だった」ジミーの祖父が1946年に建て、かつては“西のハーレム”と呼ばれた場所だった。それが事実かどうかはさておき、ジミーはこの言い伝えをすっかり信じている。そんなジミーに対し、感じの悪い地元の歴史家は、この家がもっと昔から建っていると主張する(制作者たちにお願い:デッド・ケネディーズの元リードボーカルのジェロ・ビアフラをセグウェイに乗ったツアーガイドに起用する機会があれば、すぐにでもそうしてほしい)。でも、そんなことはジミーの耳には届かない。ジミーは、父親が自滅という負のスパイラルに陥り、母親が去り、グループホームに入る前は、ここで暮らしていたのだ。ジミーは家を訪れては窓枠にペンキを塗り、それが現在の(白人)住民たちの心をかき乱す。

その後、一連の事情とともに家の所有者が亡くなり、相続問題によって空き家となる。ジミーとモントは家を無断で占拠しはじめ、ジミーにいたっては、すべての家具を倉庫で保管していたおばから昔の家具を引き取る。ふたりは家の修繕に取りかかり、“ひと汗かくために”グランプス・パークにたむろする地元のタフガイのひとりを家のスチーム・ルームに招き入れる。当然ながら、ジミーの仮設のユートピアは長続きしない。彼らの滞在が終わるのは、何よりも時間の問題なのだ。「もう二度と家には帰れない」というセリフには、いったいどんな意味が込められているのだろう?


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タルボット監督とフェイルズはもちろん、タルボット監督とともに脚本を手がけたロブ・リチャートもサンフランシスコの出身だ。彼らは、路上で暮らすガターパンク、ヤッピー、気軽なヌーディスト、怒りに満ちたボヘミアンが点在するサンフランシスコの景観をとらえた。絵葉書のように美しい風景のなかでは3つ目の魚が海から陸に吐き出され、何語かわからない言語で人々が文句を言い合い、クイーンの「Someone to Love」のハウスミュージック・バージョンを大音量で流しながら観光客向けの路面電車が走る。大都市の歴史において変化は避けて通れないものであることを監督たちは理解している。劇中で何度も繰り返されるように、ジミーの憧れの対象である、アフリカ系アメリカ人の住民が優勢だった頃のフィルモア地区は、かつては日本人移民の居住区だった。彼らは、第2次世界大戦の勃発とともに収容所に送られてしまったのだ。ジミーたちは、どの時代にもつきものだが、21世紀にとりわけ速度を増した人口の変化を経験したホームタウンの変貌に対して怒っているのだ。

だが、その怒りを突き動かしているのは愛着であり、それは新参者のシニカルなふたりの女性とジミーのバスのシーンで明確に描かれている。ジャニス・ジョプリンやジェファーソン・エアプレイン的なものに憧れて来たのに、と不平を漏らす女性たちに対し、ジミーは「この街を憎まないで」と言うのだ。これは、常に進化を続ける巨大な国際都市の風景とともに生きてきた人々の胸に響く言葉だ(かいつまんで話すとこうなる:サンフランシスコ、僕は君を愛してる。でも君は僕を滅入らせてしまう)。さらに同作は、札束でパンパンの財布を持つ富裕層が“都市再生”という言葉を頻繁に使うホットスポットで人種や移住が持つ意味について臆せず語っている。これは、ゴールドラッシュやゲットー化を散々経験した街の情景であり、こうしたものは、経済的なブームの恩恵を受けられなかった住民たちの心に痕跡を残しているのだ。

クライマックスは、立ち退き前夜にモントが満を持して自作の芝居を屋根裏部屋で上演するシーンだ。そこには辛い現実があり、来る終幕の雰囲気が漂っている。社会の病を癒すことはできないが、個人的な勝利は、勝利以外の何ものでもない。『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』はフィッツジェラルドの小説『華麗なるギャッツビー』の有名なエンディングとゴールデン・ゲート・ブリッジを組み合わせたようなシーンで幕を下す。それは挑戦的な疑問を投げかけるように、最後に心に突き刺さる。それでいて、贈り物をもらったような気分になるのだ。

Translated by Shoko Natori

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