現代アメリカの精神的支柱、アリシア・キーズが激動の時代に届けた集大成

アリシア・キーズ(Courtesy of ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル )

 

ボーダレスな音楽性、多彩な制作陣

そんなアリシアはニーナのスピリットのみならず、彼女のボーダレスな音楽性もしっかりと継承している。前作『Here』から約4年ぶりとなるアルバム『ALICIA』は、なにか特定のジャンルにカテゴライズして語ることが困難なほどに多彩なサウンドであふれている。ディスコ/ファンク(「Time Machine」)、レゲエ/ダブ(「Wasted Energy」)、フォーク/カントリー(「Wasted Energy」)、カリビアンミュージック(「Underdog」)、ダウンテンポR&B(「Show Me Love)、「No One」や「Girl On Fire」の流れを汲むパワフルな「Love Looks Better」もあれば、ピアノの弾き語りによる荘厳なバラード「You Save Me」もある。




エド・シーランを筆頭に、グラミー賞主要部門のウイナーがずらりと並ぶ制作陣の顔ぶれも只事ではない。ルドウィグ・ゴランソン(チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」)、ライアン・テダー(アデル『25』)、ノエル・ザンカネッラ(テイラー・スウィフト『1989』)、マーク・ロンソン(エイミー・ワインハウス『Back to Black』)、ジミー・ネイプス(サム・スミス「Stay With Me」)、トリッキー・スチュワートとザ・ドリーム(ビヨンセ「Single Ladies」)。これだけの豪華コンポーザーを従えてつくり上げた音楽的冒険心に富んだアルバムに、ずばりセルフタイトルの『ALICIA』と名付けるあたりに彼女の凄みがあるのだろう。

「個性的であればあるほど自分らしくなれる。型破りなことをするのは、それが運命だから。変化を起こす人であるためにまず必要なのは、真の自分でいること」

今回の新作『ALICIA』は、これまでケンドリック・ラマーやドレイク、カニエ・ウェスト、エミネム、ジェイ・Z、Nasといった人気ラッパーたちと共演を重ね、ジャンルを問わずビヨンセやボノ(U2)、ジャック・ホワイト、アダム・レヴィーン(マルーン5)、ジョン・メイヤー、アニー・レノックス、アンジェリック・キジョ、ブランフォード・マルサリス、レイ・チャールズ、ベイビー・シャム、ペドロ・カポらとコラボしてきたアリシアの真骨頂であり集大成といっていい。その未知の音楽に寄せる無尽蔵の好奇心と探究心が、ここではカリードやサンファ、ティエラ・ワック、スノー・アレグラ、さらにはタンザニア人シンガーのダイアモンド・プラトナムズなど、いつになくフレッシュな才能に向けられている点に現在のアリシアの好調ぶりがうかがえるだろう。



それにしても、新型コロナウイルス感染の影響からたびたび延期を重ねてきたニューアルバムが、結果的にアメリカ大統領選直前のタイミングでリリースされたことになにか運命めいたものを感じてしまう。思い出してほしい。ドナルド・トランプ大統領の就任式が行われた翌日の2017年1月21日、首都ワシントンD.C.で開催された女性の権利向上を訴える抗議活動「ウィメンズマーチ」の先頭に立っていたのは、誰あろうアリシアであった。当時女性蔑視的な発言を繰り返していたトランプ大統領に対して抗議した彼女のスピーチは、いまのアメリカにおいても十分有効だ。

「女性であることの美しさに誇りを持ち続けましょう。私たちは母親です。介護人です。芸術家です。そして活動家です。私たちは企業家で、医者で、産業技術のリーダーです。私たちの可能性は無限です。立ち上がりましょう。私たちは政府の男たち、もしくはあらゆる男たちに体を所有されたり支配されたりすることを許しません。私たちの良心を踏みにじられることも許しません。すべてのアメリカ国民に最善なものを要求します。憎悪や偏見、イスラム教への規制は要りません。私たちは教育と医療、そして公平さを要求します」

1960年代、公民権運動の時代にニーナ・シモンがいたように、2020年代の現在、ブラック・ライヴズ・マターの時代にはアリシア・キーズがいる。『ALICIA』が混沌としたアメリカ社会にとっての光明になるかはわからないが、これがいまのアメリカや世界の情勢を反映したいま聴くべき歌、いま必要とされる歌であることはまちがいない。




アリシア・キーズ
『ALICIA』
日本盤CD(全16曲)
2020年10月7日(水)発売
日本盤ボーナス・トラック収録
初回仕様限定ポスター封入
視聴・購入:https://lnk.to/AliciaKeys_ALAlicia


『ディス・イズ・アメリカ  「トランプ時代」のポップミュージック』
著:高橋芳朗
編:TBSラジオ
発売中
詳細:http://www.small-light.com/books/book079.html

 
 
 
 

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