ザ・ルーツ「戦争の親玉」ストリーミングでは聞けないカバーの名作をもう1曲。ザ・ルーツの2007年のツアー映像か、同じ年のコーチェラ・フェスティバルの映像でないと聞くことができない。シンガー/ギタリストの“キャプテン”カーク・ダグラスが、アメリカ合衆国国歌をバックに曲の最初の歌詞を読み上げる。その後ヘヴィで激しいグルーヴに変わり、最終的にはダグラスのギター、クエストラヴのドラム、トゥーバ・グッディング・Jr.のホーンの上に、壮大なファンク・ジャズが炸裂し、ディランのオリジナルに凝縮された政治的怒りを新たな方向へと導いた。
ザ・ホワイト・ストライプス「コーヒーもう一杯」リリース当時はほとんど注目されなかったが、ザ・ホワイト・ストライプスの1999年のデビューアルバムに収録された『欲望』からのカバーは、大半のディランのカバーとは真逆のアプローチをとっている。つまりオリジナルに音を足すのではなく、引き算で音をはぎ取っていくのだ。ジャックの唸るギターと声、メグのドラムだけを残し、錯乱した世紀末パンクのエネルギーがほとばしる。
ソニック・ユース「アイム・ノット・ゼア」2007年、トッド・ヘインズ監督が手掛けたディランの伝記映画のサントラ――他にもジム・ジェイムズ、スティーヴン・マルクマス、キャット・パワーら他多数の秀逸カバーを収録――からのタイトルトラックに、ソニック・ユースはディランにとって多作だった1967年の中でも、あまり知られていない曲を選んだ。珍しく素直でまっすぐなこの曲は、自分を愛してくれる女性のそばにいられないと思う男が、きまり悪そうに謝罪する歌だ(そういう意味では、「悲しきベイブ」の悲しい続編ともいえる。俺はお前を悲しませるだけだ、と言って、男は本当にそうする)。カバーバージョンはサーストン・ムーアの打ちひしがれたボーカルを、ギターのフィードバックが包み込む決定版。なんとも胸が締めつけられる。
ボーナストラック:ディランを題材にした曲ヨ・ラ・テンゴ「From a Motel 6」ベル&セバスチャン「Like Dylan in the Movies」ウィルコ「Bob Dylan’s 49th Beard」カウンティング・クロウズ「Mr. Jones」近代音楽におけるディランの影響力はあまりにも強く、称賛の証として彼を題材にしたオリジナルソングを作るアーティストのプレイリストが作れるほどだ。ここで挙げた4曲は、ディランの名を巧みに盛り込んだウィルコやベル&セバスチャンから、ディランの楽曲のひとつをもじったヨ・ラ・テンゴ、「やせっぽちのバラッド」へのオマージュで始まってアダム・ドゥーリッツが文字通り「ボブ・ディランになりたい!」と叫んで終わる90年代オルタナロックのヒット曲まで多岐にわたる。ポイントは正直さ(honesty)だ。
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