田中宗一郎が語る、オンラインカルチャーが駆動したポップ音楽の20年史と、パンデミック以降の音楽文化の可能性

トラヴィス・スコットとザ・ウィークエンドの卓越したオンライン戦略

かつてはエキサイティングだったオンラインカルチャーも、いまや既得権益を強化するための道具に堕してしまった。もちろん、TikTokのようなプラットフォームを使って、ニューカマーが頭角を現すという機会もあるわけだけど、ここでも2010年代の覇王であるザ・ウィークエンドがその覇権をより確固たるものにすることに繋がったりもしてるわけじゃないですか? そもそも彼の場合、資本主義の権化というか(笑)、現代社会の光と影の両方を象徴するような存在なので、彼のことも彼の音楽も大好きなんですけど。ただ、気がつけば、いろんな作家が作る曲がTikTokの特性に最適化する方向に向かったりと、やはり今聞こえてくるのはあまり楽しい話ばかりではないと思うんです。

The Weeknd Experience - Blinding Lights (Animated Video)



それと、パンデミック以前から自らのキャリアや権利の担保に対して意識的な作家や組織はオンラインも含め、いくつもの新たな活動の可能性を模索していたことは指摘しておくべきかもしれません。

代表的な存在はやはりトラヴィス・スコットですよね。エピック・ゲームスと組んで、今年の春には誰よりも早く大規模なオンライン・イヴェントを「フォートナイト」内で成功させている。昨年2019年のシングル「ハイエスト・イン・ザ・ルーム」の時点で、既にそれをPVで匂わせていましたしね。

Travis Scott and Fortnite Present: Astronomical (Full Event Video)



Travis Scott - HIGHEST IN THE ROOM



彼の場合、作曲家/プロデューサー、ルドウィグ・ゴランソンと組んで、全世界で公開されたばかりのクリストファー・ノーラン映画『TENET テネット』とのコラボレーションも果たしている。実際、その仕上がりも見事と言うしかなくて。

Travis Scott - The Plan (From the Motion Picture "TENET" - Official Audio)



クオリティコントロールやブランディング――とにかくプロデューサーとしての才覚がずば抜けてるんですよ。マクドナルドとのコラボレーション用の動画に登場しているのも、もはや彼自身ではなく、「フォートナイト」と同じく彼のアバターですからね(笑)。彼ほど今の時代を生き抜く術を知り尽くしている存在はいない。いち早くゴリラズというバーチャルバンドを立ち上げたデーモン・アルバーンも歯軋りしてるんじゃないかな。

The Travis Scott Meal | McDonald’s



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