田中宗一郎が語る、オンラインカルチャーが駆動したポップ音楽の20年史と、パンデミック以降の音楽文化の可能性

新たに生まれたゲームの規則と、それが助長する格差

この20年でストリーミングサービスとライブ興業を組み合わせたビジネス・スキームが確立されることになった。それと並行してプロモーションの舞台も完全にオンラインに移行することになって、かつては覇権を握っていたラジオ局や雑誌といったメディアも弱体化していきます。その間、リル・ナズ・Xやロディ・リッチをブレイクさせたTikTokの登場を待つまでもなく、ソーシャルメディアを媒介にすることでリゾやエラ・メイのような才能も次々と発見され、ブレイクして行く。

Lil Nas X - Old Town Road (Official Video) ft. Billy Ray Cyrus



Roddy Ricch - The Box [Official Music Video]



Lizzo - Truth Hurts (Official Video)



Ella Mai - Boo’d Up



忘れてはならないのは、こうした産業面を中心とした環境の変化は、そのまま音楽の文化的なトレンドにも分かち難く繋がっているということ。リアリティ・ショー出身のラッパー、カーディ・Bが自らのリリックとソーシャルメディアの発信を武器に時代の覇権を握ったことはとても象徴的な話だと思います。

Cardi B - WAP feat. Megan Thee Stallion [Official Music Video]



ただ同時にこんな風に新たなゲームの規則が一般化することは、格差を助長することにも繋がっていた。自らをオンラインでプロモーションして、ストリーミング再生に繋げて、巨大フェスティヴァルや大規模なワールドツアーの高額なギャランティですべてを回収する――そんなモデルが一般化することによって、特にそれまで地道なライブ・サーキットと、それに伴う各地のラジオ局やリテーラーでのプロモーションの積み重ねによって自らのキャリアを担保するというエコシステムを90年代から築き上げてきたインディ・ロックは大打撃を受けることにもなった。

この新たな格差の問題――誰もが新たなゲームの規則に最適化しなければ淘汰されてしまうという部分に目をつぶりさえすれば、全般としてはこの20年間は順風満帆な方向に進んでいたとも言える。実際、エンドユーザーからすれば、オンラインとオフラインそれぞれの現場における体験や消費の選択肢が一気に増えたわけだから、エキサイティングな状況でもあったと思うんですね。

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