セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』 メンバーによる40年後の全曲解説

セックス・ピストルズのジョニー・ロットンとグレン・マトロック(Photo by Ray Stevenson/REX/Shutterstock)


8. 「アナーキー・イン・ザ・U.K.」



マトロック:夏だったと思うんだけど、いつもみたいにリハーサルしてた時に「誰か曲のアイデアはないのか?」って俺がふっかけた。当時は俺がバンドを引っ張ってる感じだったからね。スティーヴはちょっとしたアイデアを持ってたけど、インパクトは弱かった。「お前はどうなんだよ?」ってあいつに言われて、俺はしばらく温めてたイントロっぽい下降するラインを弾き始めた。みんな気に入ったみたいで、「そっからどう進むんだ?」って感じで興味を示してたから、俺はその先の展開を即興で弾き始めた。するとジョンが反応して、歌詞を書いた紙を束にして突っ込んでたビニール袋の中から1枚取り出してこう言った。「こういうのを待ってたんだ。ちょうどいいアイデアがあるんだよ」。俺たちのレコードのアートワークを手がけたのはジェイミー・リードってやつなんだけど、当時ヤツは扇動的な発言の数々で社会における危険因子とみなされてた。ジョンの歌詞はやつのことをイメージしたらしかった。

ロットン:中産階級の人間にとって、無政府状態っていうのは空想に過ぎないと思ってた。贅沢品みたいなもんだ。それは民主主義の中からしか生まれ得ないから、余裕のない社会にとっては手が届かない代物なんだよ。それにすごく曖昧な概念だから、俺は曲として自分なりの答えを提示したかった。特に理由もなく何もかもぶっ壊したいとか、お前には勿体ないとかじゃなくてさ。俺は自分が人類というコミュニティの一部だってことと、より厳しく取り締まられる文化っていう共同体の一員だってことをずっと意識してる。それを進んで破壊する道理なんてないさ。

本気のアナーキストたちがこの世にどれくらいいるのか、俺には知る由もなかった。今も存在するのかもどうかも知らない。そういやマリリン・マンソンがアナーキストを気取ってたけど、あれには笑ったね。メイクしてコルセットを巻いたガキなんて話にならない。アリス・クーパーも同じことをやってたけど、あんなのは1人で十分なんだよ。

マトロック:音源で弾いてるのは俺だよ、あの曲を録ったのは1976年だからな。ダフ・マッケイガンはバンドのライブを観たことがあるらしいんだけど、彼と話した時にこう言ってたよ。「グレン、あんたがああいうモータウンっぽいプレイができるとは知らなかったよ」ってね。実際に、あの曲の俺のプレイはジェームス・ジェマーソンを意識してるんだ。

ロットン:グレン・マトロックは“俺はキリストの敵 / 俺はアナーキスト”(I am an antichrist/I am an anarchist)っていうラインが気に食わないみたいだったけど、俺にはその理由が理解できなかった。「アンチ過激」っていうのが正しい表現かどうかわからないけど、やつは基本的にもっと穏健にやりたがってた。あれがグレンと俺の対立の原因になったんだ。

マトロック:俺が曲の歌詞を気に入らなかったっていうのには語弊がある。俺が気に食わなかったのは“俺はキリストの敵 / 俺はアナーキスト”っていうラインだけだ。韻を踏んでるわけでもないし、今でも好きになれないね。俺は韻を踏んでない歌にイラつくってだけで、あのフレーズの意味に反応したわけじゃない。ただし、イギリス政府を転覆させるべきかっていう社会政治的議論と、実現するかどうかっていうのはまた別の話だがね。少なくとも、ステージであの曲を歌えたことは誇りに思ってるよ。

ロットン:デモ音源の冒頭では、「今すぐ」(right now)っていうフレーズの前に「金言」(Words of wisdom)っていう言葉が出てくるんだけど、冗長だと思ったから削った。俺はできるだけ誇張を避けようと意識してた、無意味だからね。リハーサルの場では、いつも不要なものを削ぎ落とそうとしてた。ギターパートもできる限りシンプルにしたし、スティーヴもそれが賢明だと思ってるようだった。ポールも無駄のないストレートなパターンを叩いてた。でも歌詞については、判断はいつもオーディエンスに委ねられるんだ。「これは天才的な曲だ、聴いてくれ」なんて風に、10点満点の自己採点を押し付けるわけにはいかないからな(笑)

「今すぐ」っていうラインを冒頭に持ってきたのは賢明だったと思う。本番のレコーディングでは、あのフレーズを録るのに苦労したよ。何度もやり直した。ビートを数えろなんて言われたけど、俺にはその意味が分からなかった。「ビートって何だ?」って感じさ。ポールにはいろいろと助けられてたけど、彼が何かしらの専門用語を口にするたびに、その意味を知らない俺は腹を立ててた。

Translated by Masaaki Yoshida

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