セックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』 メンバーによる40年後の全曲解説

5. 「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」



マトロック:この曲のリフといくつかのコード進行は俺が考えついた。「アナーキー〜」を本格的に録り始めた頃に浮かんだんだ。最初はサウンドエンジニアで事実上のプロデューサーだったDave Goodmanとやってみたけど上手くいかなかったから、俺たちはストライキに出てクリス・トーマスを引き入れた。スタジオにはピアノが置いてあったのを覚えてる。俺は素人だけど、要望があれば「ブルーベリー・ヒル」を弾いてやってもいいぜ。とにかく、この曲のリフを考えたのは俺だ。ギターを弾きながら考えついたんだよ。俺が持ち込んだそのアイデアに、ジョンが歌詞をつけたんだ。

ロットン:この曲の歌詞は最初から最後まであっという間に書き終えた。アルバムのレコーディングに入る前から何度もセッションしてた(プロデューサーの)クリス・スペディングから、俺は曲構成の基本と曲に沿った歌い方を教わった。ただがなり散らすんじゃなくてね。俺は音楽のことなんて何も分かっちゃいなかった。子供の頃からレコードは買ってたけど、スタジオでビートに合わせて音程を取りながら歌い、それにフィットする歌詞を考えるってのは、まったく別の話だからね。

歌詞を考えるのは楽しかったよ。広い意味での君主制っていうものと、一方的に服従を強要する人間に対する俺の考えを表現する手段だったからね。俺はそんなものを受け入れるつもりはなかった。絆や忠誠心は無条件で得られるものじゃないからだ。支持を求めるのなら、その根拠をはっきりと示す必要がある。それが筋ってもんだ。

マトロック:あの曲の当初のタイトルは「No Future」だった。でも俺が抜けた後、どっかのタイミングで曲名が変更になったらしかった。歌詞は変わってなかったけどね。たぶんマルコムあたりが女王の生誕50年にあやかろうとして、冒頭の“女王陛下万歳”(God save the Queen)っていうラインを曲名にすることにしたんだろうね。でも元々は「No Future」っていう曲だったんだ。

ロットン:あの曲は王室を批判したものだと思われがちだけど、それは事実じゃない。アンチ君主制っていうアティテュードを示しているけど、矛先は王室の人間に向けられているわけじゃないんだ。生まれた瞬間から死ぬまで鳥籠の中で生きることを宿命づけられている英国王室の人間に、俺は心から同情してるからね。脱出を試みても、規則という網に必ず引っかかるんだ。

“奴らがお前を無能にした”(They made you a moron)っていうラインは、無条件で服従することが馬鹿げてるってことを言わんとしてるんだ。(王室が)そんなものに頼っているようなら、この国に「未来はない」って歌ったのさ。彼らは少しずつ、でも確実に、子供が3〜4人の一般的な中流家庭に変わりつつあるけどね。俺は虚構ってのが好きでね、サッカーに通じるものを感じるからな。一般市民が大勢集まって国旗を降ってる画はカラフルでいいね、自分が何かの一部だってことを感じたい気持ちは理解できるよ。自分が王室とはまるで無関係の人間であっても、幸か不幸かイギリス国民であることだけは確かなんだ。俺は自分のそういう見方や感覚を大事にしてるし、誰にも口を挟ませない。俺はアイルランド人でありながら、本質的にイギリス人なんだ。

Translated by Masaaki Yoshida

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