Kan Sanoが語るブルーノート、ドナルド・バード、UK新世代ジャズへの共感

 
「Think Twice」カバーの背景とUKジャズの独自性

―では、そろそろ『Blue Note Re:imagined』の話を。これはどんな感じでオファーが来たんですか?

Sano:コンピが出るというのはTwitterで見かけていて。「こんな企画があるんだ」と思ってたら、自分のところに話が来たという感じです(笑)。

―ボーナストラックとして参加することになったわけですが、なぜドナルド・バードの「Think Twice」を選んだんですか?

Sano:実は何曲か候補を出していて、最終的にこれになったんですよね。一番思い入れが強いのもあるし、ちょっと歌が入ってたほうがいいかなっていうのもあって、「Think Twice」にしました。

―ちなみに他の候補は?

Sano:ジーン・ハリス「Losalamitoslatinfunklovesong」とか、ボビー・ハッチャーソン「Montara」とかですね。ボーナストラックなので、多くの人が知ってる曲がいいのかなと思って。




―この「Think Twice」のカバーはどんなイメージでアレンジしたのでしょうか?

Sano:割と音数が少ないアレンジにしたかったので、ドラムとベースが基本鳴ってて、ウワモノを少なくしようというのは意識しました。あとは今、自分の新しいアルバムを完全に一人で作ってるんですけど、それとは違う作り方をしてみたかったので、普段ライブでサポートしてもらっているMimeの森川祐樹くん(Ba)と内野隼くん(Gt)、BREIMENのドラムの菅野颯くんにも少し参加してもらいました。ベーシックの部分は僕が作って、その上に乗っかってもらう感じで。ドラムに関しては完全に任せるか迷ったんですけど、基本は僕が打ち込んで、その上にパーカッション的なものを加えてもらう形になりました。



―特に意識したことはありますか?

Sano:最近のドラムって、もはや打ち込みなのか生音なのか判別がつかない時がありますよね。今回の『Blue Note Re:imagined』もそうで、トラックメイカーと生バンドの人がごっちゃになってて、ちゃんと聴いてても打ち込みなのか生なのかわからなくなる時がある。

イギリスといえば、ジャイルス・ピーターソンのレーベル、ブラウンズウッドが出してる『Brownswood Bubblers』ってコンピレーション・シリーズがずっと好きで。今回の『Blue Note Re:imagined』に参加している人たちにも繋がるようなサウンドですよね。その辺りをなんとなく意識しながら、「打ち込みなんだけど生っぽい」質感を目指してみました。



―なるほど。今のUKのミュージシャンが手掛けている音にも溶け込むように作ったんですね。

Sano:そうですね。『Brownswood Bubblers』は初期の頃から聴いてるんですけど、ホセ・ジェイムスやフライング・ロータスも入ってたし、すごく幅広かったですよね。あと、少し前(2018年)に松浦俊夫さんがUKの若い人たちを集めて、『LOVEPLAYDANCE』というアルバムを発表してたじゃないですか。あれを聴いて、向こうのミュージシャンの良さを知ったところはありましたね。


『LOVEPLAYDANCE』にはドラマーのトム・スキナー(サンズ・オブ・ケメット、メルト・ユアセルフ・ダウン)、トム・ミッシュと共演作を発表したユセフ・デイズ、『Blue Note Re:imagined』にも参加しているヌバイア・ガルシアなどが参加

―松浦さんのアルバムはUKクラブシーンの名曲を、今の若い世代によるバンドでカバーするプロジェクトでしたよね。今のお話も踏まえて、ドナルド・バードをどんなふうにカバーしようとしたのか教えてください。

Sano:マイゼル・ブラザーズって16ビートが多いので、70年代のドナルド・バードもそうなんです。だから、今回もそういうビートなんですよね。ドラムは打ち込みだけど、ハイハットは僕が叩いたもので、16ビートにはこだわりました。

あと、J-POPってコード進行を聴かせる作りが顕著じゃないですか。コードがはっきりしてて、コードの動きでエモさとかを表現しがちというか。でも、『Blue Note Re:imagined』に参加してる人たちはそういうベクトルじゃないんですよね。僕もコード進行は好きだし、つい動かしたくなっちゃうんけど、今回はコードをべったりにはしたくなかった。だから、あくまでドラムとベースが基本で、なるべく和音は控えめにしようと思って。そこにはこだわりましたね。Bセクションでハーフタイム・フィールになって、ふわふわしているんですけど、そこはそういう感じで。コードの動きじゃなくて、ウワモノの音作りで聴かせたいというのは意識しましたね。

―つまり、普段の自分の作品とも違うし、日本人のアーティストをプロデュースする時とも違うことを意図的にやっていると。

Sano:違いますね。日本人のプロデュースだったら、もっとコードがはっきりしたものが求められると思うし、自分もそういう曲の方が多いので。あとは「Think Twice」のメロディがキャッチーでしっかりしているから、納得できるバランスに仕上げられたのかなとも思います。

 
 
 
 

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