ポルノではなく芸術、世界の官能映画30選

10.『ケレル』(1982)

Photo : Triumph Releasing/courtesy Everett Collection

ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の最後の映画『ケレル』は、監督にとってもっともパーソナルであると同時に、同監督作のなかでももっとも悪評の高い作品のひとつで、そのけばけばしい不自然さとトム・オブ・フィンランド(訳注:LGBTQの権利を訴えたフィンランドの作家)にインスパイアされた舞台装置は、ファスビンダー監督の熱狂的な信奉者さえも苛立たせた(あの巨大な男性器の大道具を見てほしい!)。だが、フランスの作家ジャン・ジュネの小説『ブレストの乱暴者』を題材とした、いかにも舞台向きで様式化された同作は、極めて深奥でありながら悲しく、劇中で繰り広げられる濃密な同性同士のセックスシーンは、別世界のような雰囲気を醸し出している。ジュネの小説の映画化というよりは、原作を読み終えたファスビンダー監督の熱に浮かされた夢と夢精のような作品だ。(Writer: BILGE EBIRI)

11.『ヘンリー&ジューン 私が愛した男と女』(1990)

Photo : Etienne George/RDA/Getty Images

いまとなっては内容よりも当時の公開事情のせいで有名になったフィリップ・カウフマン監督の『ヘンリー&ジューン 私が愛した男と女』。フランスの女流作家アナイス・ニンの回想録を映画化した同作は、初めてNC-17(17歳以下鑑賞禁止)に指定されたメジャー映画である。技巧的なエロティカ作品をX指定というポルノ映画の呪縛から解放するはずだったNC-17指定は、すぐに災いのもとになってしまった。というのも、多くの新聞社が比較的趣味の良い(そして大胆なまでにセクシャルな)同作の広告掲載を拒んだのだ。『ヘンリー&ジューン 私が愛した男と女』はフレッド・ウォード扮する性的好奇心に満ちた作家ヘンリー・ミラーと徐々に性の世界へと解放されていくニン(マリア・デ・メディロス)を描いた文学的なラブストーリーである。道徳の番人のような人々は、恍惚とした叫びやあえぎ声がわいせつだと非難したものの、ミラーの妻(およびニンの愛人)を丸裸で演じた若き日のユマ・サーマンがのちに正真正銘の映画スターになる妨げにはならなかった。(Writer: ERIC HYNES)

12.『クラッシュ』(1996)

Photo : Fine Line/courtesy Everett Collection

デビッド・クローネンバーグ監督がイギリスの作家J・G・バラードの同名小説を映画化した『クラッシュ』を的確に表現するとしたら、卑猥以外あり得ない。自動車事故の衝撃から得る性的快感がテーマの近未来が舞台の同作は、近代性の残骸を検証し、自動車事故フェチや傷口への挿入行為といった私たちが存在することさえ知らなかったタブーを掘り起こした。ハイスピードによる絶大なインパクトの絶頂感からギプスのエロチックな可能性の探求にいたるまで、同作のセックスシーンは不快感を抱かせると同時に戸惑いを感じるほどドキドキさせられる。この上なく怪しげな主演俳優のジェームズ・スペイダーは、瀕死の事故によって性的倒錯者となったブルジョワの映画プロデューサーを演じた。その一方、俳優のイライアス・コティーズは顔に傷を負った自動車の修理工として映画史上屈指の淫乱な演技を披露した。『クラッシュ』は、その“大胆さ”が評価され、1996年の第49回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞した。米CNNの創設者テッド・ターナーは同作を退廃的だと判断し、全力で公開を阻もうとした。(Writer: ERIC HYNES)

13.『イディオッツ』(1998)

Photo : Mary Evans/Ronald Grant/Everett Collection

『アンチクライスト』(2009)と『ニンフォマニアック』を世に送り出すずっと前から、ラース・フォン・トリアー監督は社会と良識を嘲笑ってきた。フォン・トリアー監督が始めたデンマークの映画運動“ドグマ95”の唯一の作品である『イディオッツ』によって監督は初めて論争の味を占めた。同作は、知的障害者のふりをしてブルジョワ階級の自己満足から解放され、それに真っ向から立ち向かおうとする大人たちのグループを描いた希望のないブラックコメディである。挑発行為の一環として彼らはグループセックスに興じるのだが、当然ながら、その描写はフォン・トリアー監督らしい断固たるものだ(勃起した男性器のシーンもあるが、米国公開の際にデジタル処理が施された)。そのため、いくつかの国ではレイティングをめぐるトラブルに発展したが、その後のフォン・トリアー監督の作品の基準と比較すると、まるでディズニー映画のようだ。(Writer: BILGE EBIRI)

14.『アイズ ワイド シャット』(1999)

Photo : Warner Bros/Courtesy Everett Collection

スタンリー・キューブリックの遺作『アイズ ワイド シャット』は、話題になったベネチアのマスクが登場する乱行シーンに加えられた監督公認のデジタル処理によってポルノ的な行為がぼかされたおかげでNC-17指定を免れた。このシーンは見事なまでにエロチックだが、同作でもっとも卑猥な場面はギリギリPG-13指定といったところだろう。豪勢なクリスマスパーティでそれぞれが別の相手とのささやかな戯れを楽しんだ後、トム・クルーズとニコール・キッドマン扮する夫婦は、ベッドルームでハイになりながら欲望について語り合う。妻が性的な誘惑に駆られるなんてあり得ないとクルーズに挑発されたキッドマンは白い下着姿になり、夏の休暇先で出会ったセクシーな海軍将校に関するモノローグを甘い声でささやきながら、夫の嫉妬心を掻き立てる。性的能力に関して言えば、その後クルーズが繰り広げる性的冒険はキッドマンと比べると色褪せて見える。(Writer: ERIC HYNES)

Translated by Shoko Natori

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