レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの“あの曲”に仕掛けられたリズム展開 鳥居真道が考察

キメの後の余白にギターのブラッシングやドラムのビートが加わっていきます。それに伴い息子と父のノリも加速していきます。息子のほうが裏拍で肩を上げているところなど見ると、なかなかにリズムセンスに恵まれているようです。このセクションで父と息子がどんどんはっちゃけていくという演出は、演奏の本質を突いているように思います。というのも、ここではそれまで提示されていたグルーブの質が変化する箇所だからです。ここがまさに最後に「Killing In The Name」のリズムのおもしろさとなっています。

どういうことか。簡単に言ってしまえば、それまでイーブンだったリスムがここに来てハネ始めるということです。再びピザに喩えるなら、それまで16等分だったものが、24等分になったといえます。「24等分のハネ」について詳しく説明するのは別の機会に譲りたいと思います。ひとまずGuyの「Groove Me」など聴いていただけたら、24等分されたリズムがどういうフィールをもたらすのかわかるかと思われます。

空耳の映像では「どうすんだい」という母による中断がオチとなるわけですが、その後のパートでもハネたハーフタイムのリズムが続きます。1番、2番ともにもっとも解放感があるセクションです。サブディビジョンの変化で緩急をつけるというアレンジ上のテクニックは寡聞にして他に例を知りません。

以上見てきたように「Killing In The Name」は一曲の中に複数のリズムの仕掛けが施されて曲であります。空耳の秀逸な映像を引き出すようなポップネスがRATMにはあることを再確認にした次第です。ポップネスという言葉はRATMには似つかわしくないのかもしれません。しかし、そうした要素があったからこそ中学1年生の私は魅了されたのだと思います。20年後の今、そのことをポジティブに捉え返してみたい。RATMからナゲットは手渡された。そこでどう行動するのかは私次第。そんなぼんやりとしたことを考えながら、再びの来日を願いたいと思います。



鳥居真道


1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE

◾️バックナンバー

Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」
Vol.12
クラフトワーク「電卓」から発見したJBのファンク 鳥居真道が徹底考察
Vol.13 ニルヴァーナ「Smells Like Teen Spirit」に出てくる例のリフ、鳥居真道が徹底考察
Vol.14 ストーンズとカンのドラムから考える現代のリズム 鳥居真道が徹底考察
Vol.15 音楽がもたらす享楽とは何か? 鳥居真道がJBに感じる「ブロウ・ユア・マインド感覚」

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