ザ・バンド『ラスト・ワルツ』が史上最高のライブ映画となった理由

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ザ・バンドは闇に包まれる、しかし音楽は流れ続ける

映画『タクシードライバー』の監督が、ロバートソンとその仲間たちへパナビジョン(訳註:撮影用カメラ)をただ向けていろ、とカメラクルーへ指図するだけでも、ステージ上の魔力を記録できただろう。マディ・ウォーターズが「マニッシュ・ボーイ」を情熱的に歌い上げれば、ニール・ヤングはカナダ人バンドを従えて「ヘルプレス」をリードする。実はその時ステージ袖のカーテンの後ろでは、ジョニ・ミッチェルがコーラスでバックアップしていた(ヤングには、さらなるヘルプも必要だった。ヘルムの自伝『This Wheel’s on Fire』によると、映像にはヤングの鼻の穴からはみ出ている白いコカインの塊が映り込んでしまっていたという。バックステージでのヤングの行為を隠すため、映画化するにあたり映像に修正を加える必要があった)。そしてヴァン・“ザ・マン”・モリソンは「キャラヴァン」をソウルフルにシャウトする。さらにボブ・ディランによる「いつまでも若く」や「連れてってよ」は、ディランとアメリカーナ音楽との移り気ながら壮大な絆を思わせる(ディランは当初、映画『ラスト・ワルツ』が、自身の「ローリング・サンダー・レヴュー」プロジェクトの一環として制作した映画『レナルド&クララ』の興行に影響することを懸念して、自分が登場する4曲の撮影を拒否したという)。

しかしスコセッシと、編集のジャン・ロブリーとイウ・バン・イーの手法は、注目に値する。楽曲「オールド・ディキシー・ダウン」のビートとシンクロして、バンドのメンバーの映像が次々と切り替わる(ヘルムのサウンドは、かつてこんなに素晴らしいものだったろうか?)。ロバートソンとエリック・クラプトンが交互にギターソロを取る時には、映像が両者を行ったり来たりする。ロニー・ホーキンズとかつての「ホークス」が楽曲「フー・ドゥー・ユー・ラヴ」を演奏し終える時のカメラワークは、彼らの一体感をよく表現している。特に楽曲「ザ・シェイプ・アイム・イン」等に見られるフレーミングは、音楽を引き立たせる手法に対するスコセッシらの造詣の深さが伺える。作品をアンコール曲のシーンから始め、続いてコンサートの冒頭へ戻るというユニークな展開を、35mmのフィルムで壮大に表現した。ライブの体験とツアー生活を終えるバンドへの称賛、すなわち北アメリカの音楽史における栄光の時代に対する感謝の言葉を、表現の技法を駆使して記録しているのだ。



配給会社のユナイテッド・アーティスツは、ロバートソンとスコセッシに追加の撮影分の費用を出すこととなった。コンサートから数ヶ月後、メンバー全員が再結集し、サウンドステージで3曲の演奏シーンを収録した。正確にはラスト・ワルツのコンサート映像ではないが、スコセッシの手腕のおかげでウィンターランドでのコンサートからの流れに見事にマッチした。ザ・ステイプル・シンガーズが参加してゴスペル色を強くした楽曲「ザ・ウェイト」は、正に日曜日の朝の教会での礼拝を思わせる。しかしこの荘厳なパフォーマンスが印象深いシーンになったのは、ロバートソンのダブルネックのギターによるイントロから、各パートを歌うシンガーへと次々に切り替わるカメラワークのおかげだ。特に「アー、アー、アーンド♪」とヘルムからダンコ、ロバートソンへとハーモニーを重ねるパートは見ものだ。ミュージックビデオが普及する遥か前からスコセッシは、音楽のリズムを映像化する手法を身につけていたのだ。コンサートという制限があっても、スコセッシとクルーらは見事にやってのける。自由な環境の下で、彼らは正真正銘のロック・ショーを演出したのだ。

たとえドラッグやメンバーの神経のすり減りやバンド内の緊張感や、あるいは行き過ぎた時代のせいだとしても、メンバーがお互いに別れを告げるのを重荷に感じていることを、スコセッシは他の誰よりも理解していた。映画『ラスト・ワルツ』がコンサートのラストの曲から始まっていることを知らずに鑑賞しても、「最後にもう一曲だけ」という雰囲気は感じ取れるだろう。しかし、並外れたコンサート映画とそれ以上の何かを見たのだと鑑賞者に確信させてくれるのは、作品の最後に流れるインストゥルメンタル曲『ラスト・ワルツのテーマ』のおかげだ。ロバートソンのギターのアップからカメラが引き、アップライトベースを弾くダンコとラップスティルギターのマニュエルがフレームに入ってくる。さらにマンドリンを演奏するヘルムと、オルガンセットに囲まれたハドソンへと映像は移動する。ザ・バンドのメンバーが揃って演奏している。引き続き大音量のまま作品は続く。映像と音楽が完全に融合している。カメラが徐々にステージから離れるにつれ演奏する彼らの影がだんだんと大きくなり、クレジットロールが流れ出す直前にザ・バンドは闇に包まれる。しかし音楽は流れ続ける。曲の最後まで。おやすみ、そしてさようなら。


From Rolling Stone US.

Translated by Smokva Tokyo

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