パリス・ヒルトンの正体 インフルエンサーの元祖がはじめて明かした虐待経験

過去の問題発言は取り上げられていない

『This Is Paris』は、1990年代から2000年初期にかけて世間からレッテルを張られた人物、とりわけ女性たちに新たな光を当てる流れの最新の例だ。アニタ・ヒル、ロレーナ・ボビット、トーニャ・ハーディングといった女性たちに対する見方を変え、それがいかに女性蔑視の影響を受けていたかを認識し、新たな理解と同情をオーディエンスに求めるのがねらいだ。だが彼女たちとは違って、ヒルトンは社会から疎外されているわけではない。彼女は富と美貌ゆえに成功を収めた、美しい裕福な白人女性なのだ。

本作品ではこの事実が深く掘り下げられていない。オーラルセックスをするのは「ブスな子」だけというかの有名な自説や、家族ぐるみの付き合いだったドナルド・トランプ氏の「プッシーわしづかみ」発言を軽く受け流した2017年の態度、トランプ氏を性的暴行で告発した女性たちは「世間の注目を浴びて有名になりたいだけ」という主張など、犠牲者非難や売春婦を差別するような過去の発言も取り上げられていない(本人が言うには、現在はトランプ大統領の政策に幻滅したらしく、予備選挙の際はピート・ブティジェッジ候補を支持した)。

カメラの前でNワードを発するなど、人種差別的な過去にも触れていない。飲酒による危険運転で収監された際も、凡人ならもっと長い刑を務めることになるところを、たくみに特権を利用して早々と釈放されたことにも言及していない(ちなみに、映画のプロデューサー陣にヒルトンの名前があることは指摘しておくきだろう)。

Translated by Akiko Kato

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