フリート・フォクシーズのロビンが語る「死」からの学び、コロナ禍に再発見した音楽の力

フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールド(Photo by Shervin Lainez)

 
フリート・フォクシーズが9月22日、通算4作目の最新アルバム『Shore』をサプライズで発表した。(フィジカルは来年2月5日リリース予定)。その前日、中心人物のロビン・ペックノールドとの日本独自インタビューが実現。聞き手は音楽評論家の岡村詩野。

皮肉なことながら、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック以降、これまでに素晴らしい作品、楽曲が多く誕生している。コロナがもたらした人類の危機、それはしかしながら、ブラックボックスという誰もが手探りの中で、よく知っているはずの自分自身の足元のみならず、遠く離れていると思っていた隣人の心を見つめ直す、21世紀最初の大きなリセットの契機になっているということ。それが作品制作の現場に、結果として混乱ではなく精白を与えたことは特筆に値する。もちろんコロナ自体歓迎すべきではないことを前提にした上で、それでも思う、こういうタイミングを地球は人類に対しどこかで与えようとしていたのではないかと。

突如リリースされたフリート・フォクシーズのニュー・アルバム『Shore』を聴いて実感したのも、そうしたある種の宿命めいた人類の浄化と再起動だ。これまでの3作と地続きの作品には違いない。空の彼方でゆるやかにたゆたうようなメロディ、宇宙の先にまでこだまするようなヴォーカルとコーラス、深い霧が抜けた後の快哉めいたホーン、指先の手応えを丹念にたどるような繊細なギターのリフ、そしてしっかり地に足をつけたリズムや低音。その中に西アフリカのグナワ(「Cradling Mother, Cradling Woman」)や南仏ポルトガルのファドなどの要素(「Going-to-the-Sun Road」など)、あるいはブライアン・ウィルソンの声のサンプリング(「Cradling Mother, Cradling Woman」における「Don’t Talk (Put Your Head On My Shoulder)」)まで……それはもうもはやアパラチアン・フォークやマウンテン・ミュージックといった音楽的な符号を必要としない、フリート・フォクシーズでしかない音楽という名の意志のようでさえある。

どうやら新作にはロビン・ペックノールド以外のメンバーはここには深く関わっていない。代わりにグリズリー・ベアのクリストファー・ベアとダニエル・ロッセン、ケヴィン・モービーらが力を貸している。加えて、ブラジルのオ・テルノのチン・ベルナルデス、ナイジェリア出身でオックスフォード大学在学中の新鋭、Uwade Akhereの参加も興味深い。ザ・ナショナルのアーロン・デスナー所有のニューヨーク郊外のスタジオで制作がスタートしたという今作は、制作プロセス上は彼ら史上最も確かに異質な1枚ではあるだろう。だが、異質とは一体なんだろうか?とも思う。テイラー・スウィフトの新作もそうだったが、ステイホーム期間に制作しすぐさま発表するという流れは2020年の大きな傾向の一つになっている。だが、そこからは、異質どころか、本質が生まれ出てくるのではないのか。人としての、音楽としての本質が。

このインタビューは9月21日にニューヨークにいるロビンとリモートで繋いで急遽行われた。取材が決まったのはこの僅か数日前で、取材の翌日に即リリース(フィジカルでの発売は来年2月)。宣伝らしい宣伝はほとんどなく、ロビンがInstagramで制作を仄めかす投稿をしていたことと、前日にリリースのニュースが駆け巡ったくらい。聞けば、制作自体、コロナ以降の限られた期間に集中して行われたという。

手元にあるアコースティック・ギターをロビンがポロンと鳴らしたりするリラックスした雰囲気の中で取材は行われた。なお、アルバム・リリースと同時にLA拠点のカメラマン/映像作家であるKersti Jan Werdalが監督した約55分の映像も公開されているのでそちらも合わせて観てほしいと思う。

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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