ラルフ・マッチオが語る、『ベスト・キッド』続編ドラマ『コブラ会』製作秘話

ーいまになって『ベスト・キッド』を復活させるということは、ご自身にとっては一発勝負の賭けだったと思います。きちんとしたものにしようというプレッシャーはあったでしょうね。

当時といまの違いは、何よりもタイミングだと思う。企画にイエスと言ってから2年後では遅すぎるような気がしたんだ。でもそれ以上に、ジョン(・ハーウィッツ)、ジョシュ(・ヒールド)、ヘイデン(・シュロスバーグ)という3人の制作者が『ベスト・キッド』の熱狂的なファンでね。僕よりも映画のことをずっとよく知ってるんだ。彼らにとっては、子ども時代の聖典だった。だから、ずっと探し求めていた聖杯を手に入れたような気分なんだろうな。作品にものすごい敬意を払ってくれる。それに彼らは『Harold & Kumar(原題)』シリーズや『オフロでGO!!!!! タイムマシンはジェット式』(2010)を観て育った世代だから、現代のコメディの書き方を心得ている。彼らなら、いま風のティーンエイジャーの言葉づかいと過去のノスタルジーをうまく融合し、まったく新しいものをつくれると思った。でも、いざ飛び込んでみると、水は思いのほか冷たくて、深かった。ビリー(ウィリアム)・ザブカも同じさ。大変だったよ。

ー(ダニエル・ラルッソ)はあなたの代表的な役としてすでに定着していますが、これでますます有名になりますね。その点についてどう思いますか?

いま以上に役のイメージが固定してしまうのかな? そんなことはあまり考えてないよ。ダニエルは別の人間だ。だって35年分歳を食ったんだから。世界観は同じでも、別の世界なんだ。トーンも少し違う。ゾクゾクするような『ベスト・キッド』ならではの要素は変わってないけど。「へぇー、あの人またあの役やるんだ」って思う人もなかには絶対いるだろうね。でも、構わないさ。『DEUCE/ポルノストリート in NY』のような色んなプロジェクトとのバランスを保つようにしているよ。

ードラマの出演前に、昔の映画を見直しましたか?

1作目は観たよ。でも、いつくかのことを思い出した以外、役作りにはあまり役に立たなかったな。準備はできていたから、微調整するだけでよかった。『ベスト・キッド』の面白い点は、主人公の少年と同じ道をたどるということなんだ。カメラが少年の肩の上に載っていて、観ている人はダニエルの視点ですべてを体験する。15年前かな、自分の子どもたちに映画を見せたとき、僕はミスター・ミヤギの視点に立っていることに突然気づいた。ミスター・ミヤギの視点で言うことを聞かない少年を見ていて、ダニエルよりもミスター・ミヤギに惹かれた。同じ映画を新しい視点で見ることができたんだ。これは、ドラマにも活かされてるよ。

ーところで、ご存知かどうかわかりませんが、80年代のギタリストにとって『クロスロード』はとても重要な映画なんです

そうだよね。ローリングストーン誌だもんな!

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ーそうなんです。あの運指を習得するため、相当ギターを練習したのでしょうね(訳注:『クロスロード』でマッチオはブルース・ギタリスト志望の天才青年を演じた)。


もちろん。どうすればそれっぽく見えるかを徹底して学んだよ。でも音はどうかって? さすがにそこまでは無理だ。いまでも当時のテレキャスターを持っているよ。あれはクールなギターだ。あのギターほしさにとんでもないオファーをしてくるミュージシャンもいた。『ベスト・キッド』で使われた47年型のフォードのコンバーチブルも持ってる。今回のドラマにも登場するんだ。

ーギターと空手、どっちもダメなんですね。

達人レベルとまではいかないな。シーズン2ではいくつか対決シーンがあって、1〜2発すごくいいキックが出てくるんだけど、あれは全部僕がやってる。

ー『クロスロード』の撮影で一番記憶に残っていることは何ですか?

映画の最後のギターバトルのシーンかな。観客を入れて撮影するのは、あのときが初めてだった。アシスタントディレクターがみんなを盛り上げて、「待ちに待ったあの男の登場です!」とか「悪魔のお出ましです!」とか言っていたな。カメラ5台で、ノーカットで撮影したんだ。僕にとっては、夢のロックスターになった気分だった。ドアを閉め、音楽をかけてベッドに寝転がり、声援を送っている空想の観客の前でエアギターを弾く経験は誰にでもあるからね。そうだろう? ノーと言う人は嘘をついている。でも実際には、「メリーさんの羊」さえロクに弾けなかった!

ーこれで最後になるのですが、『いとこのビニー』(1992)を拝見したあと、派手なコメディ演技に埋もれてあなたの実力が過小評価されていると感じずにはいられませんでした。

あの2人(ジョー・ペシとマリア・トメイ)のケアをしなければいけなかったからね。でないと、笑えるネタも本来の半分も面白くなくなってしまう。人を引きつける重力とか、重みがなくなってしまうんだ。この映画は、観るたびに面白くなるね。『いとこのビニー』のすごさは、仕込んだものがすべて見事に笑いにつながるところだ——それも期待を超えて。わかっているときでさえ、さらに面白く感じられる。僕はこれを“ディナーに遅れる映画”って呼んでいるんだ。見はじめたら最後。あと1シーン、もう1シーンだけ! って止まらなくなり、晩メシに遅れてしまうんだ。

ー「店員を撃ちました」のシーンは最高ですね。

実は、20世紀フォックスから「供述であると同時に、質問でもあるような響きを持たせなければならない」というメモが送られてきたから、撮り直すハメになったんだ。「俺が店員を撃った? 俺が? 俺が店員を撃ったんだ!」のように何回もテイクを重ねたよ。結局どれが採用されたかは知らない。きっと最初のテイクが使われたんじゃないかな。質問であると同時に供述っぽく言わなければいけなかったから。「俺が店員を撃ったんですか? 俺が店員を撃ちました!」何が正解だったのかな? でも、20世紀フォックス側は質問にしか聞こえないことに不満だった。だから僕は「これはコメディです」と言った。わかるだろ? こうしたことの一員なれるのは素晴らしいことなんだ。『アウトサイダー』にしても、君が言ってくれたように『クロスロード』にしても、『ベスト・キッド』にしてもそうさ。時代を超えていまも愛される映画があの短期間に生まれたなんて。こんなことは滅多にあるものじゃない。だから、僕は幸せ者なんだ。

Translated by Shoko Natori

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