ラルフ・マッチオが語る、『ベスト・キッド』続編ドラマ『コブラ会』製作秘話

ー『ベスト・キッド』の最初のオーディションの映像を拝見しましたが、見事な自然さですね。ただ、癪に障ると言っていた人もいましたが。

それを言ったのは、おそらく脚本家のロバート(・マーク・ケイメン)だ。癪に障るっていのは正しい表現じゃないな。きっと「少し生意気だ」って言いたかったんだろう。君が僕を癪に障る奴だと表現するかはさておき、これだけは言っておくよ。僕は完全に役になりきることがあれば、一歩下がって状況を俯瞰することもできる。

ー当時は、ご自分の才能にとても自信があったのですか?

もちろん。自信に満ちあふれていたと思うよ。それがどこから来たかはまったくわからないけど。

ー『アウトサイダー』(1983)に出演したときもそうですか?

自信があったし、あの役がやりたかった。だから、本読みでもほかのセリフはやりたくなかった。あの役じゃなきゃダメだった。でも、(フランシス・フォード・)コッポラ監督は全員に色んな役のセリフをやらせたがった。だから「僕はこの役しかやりたくない」って言ったよ。よくもまあ、あんなふてぶてしいことが言えたよな。コッポラ監督が何者かはよく知っていたし、同席していた人たちのことも知っていたから、考えてみると興味深いよね。でも、きっといまも同じことを言うだろうな。それが僕の性格だから。原作も読んだよ。12歳のときに『アウトサイダー』(訳注:アメリカの小説家S・E・ヒントンの処女作)に通じるものを感じた。だから、映画をつくるって聞いたときは、どうしても出演しなければいけない、あの役は僕じゃないといけないと思った。こういうことは滅多に起こるものじゃないし、もう二度と起こらないかもしれない。当時は少し反抗的で、生意気だったのかな。いまもそうだけど。それがダニエル・ラルッソというキャラクターと重なり、彼を興味深い人物に仕上げたんだ。バランスと心の平安とか、ミヤギ流の色んなことや哲学とか、ダニエルにはあれだけの知識があるのに、誰かに神経を逆なでされたとたん、子ども時代のやり方に戻ってしまう。そこが面白いんだ。

ー初めて『ベスト・キッド』の脚本をもらったときの第一印象を覚えていますか?

タイトル(原題:The Karate Kid)が好きじゃなかった。多くの人がタイトルを気に入っていなかった。ずっと変更しようって言ってたよ。

ータイトルの最有力候補は?

『The Moment of Truth』。結局は、エンドクレジットの曲のタイトルになった。フランスとか、武道がそこまで人気じゃない国ではこのタイトルで公開されたんだ。The Moment of Truth(真実の瞬間)ってなんかダサいし、記憶に残らないタイトルだ。でもThe Karate Kidに関してはジェリー・ワイントローブがこう言ったよ。「わかるか? ひどいタイトルだから最高なんだ」。だから僕は「そうだね。でも万が一これがヒットしたら、僕はこのタイトルを一生背負っていかないといけないんだ」と言った。結果はご覧のとおりさ。

ー脚本そのものはいかがでしたか?

所々、古臭い部分があると思った。半分は冗談だけど、当時はミヤギ役に三船敏郎を起用しようとしていたんだ。でも、三船は英語ができなかった! 人間版ヨーダのようなパット・モリタは完璧だったよ。最初はモリタを起用することにスタッフは乗り気じゃなかった。ジェリー・ワイントローブとスタジオ側は「『ハッピーデイズ』(訳注:1974〜75年に放送されたアメリカのテレビドラマ)のアーノルドはノーだ。あり得ない!」と言って一蹴した。そこでジョン・アヴィルドセン監督が「このテープを見るべきだ」って言った。それがパットと僕の初めての本読みの映像だった。アヴィルドセン監督が編集でつなぎ合わせた映像がYouTubeで公開されているよ。あの映像で一番面白い点は、部屋に僕とアヴィルドセン監督しかいなかったということ。監督は、大きなビデオカメラを持っていた。ほかの人たちは、アパートメントの廊下でひとりずつ監督に呼ばれるのを待っていた。あの映像を観たとき、僕は監督の話を聞きながら少し緊張しているのがわかった。妻に「あなた、ずっと鼻を触ってるじゃない」って言われたよ。緊張してたんだ。でも、セリフを読み始めたとたん、僕はダニエルになり切った。そこからずっと良くなって、ひょっとしたらキャラクターの深みも出せたかもしれない。でも、ゼロからいきなり百に行ったわけじゃない。若い俳優っていうのは、往々にしてそうなんじゃないかな——ヘンリー・トーマスが『E.T.』(1982)のオーディションを受けたときのように。しかるべきタイミングでしかるべき俳優が起用されたってことなんだと思うよ。


『コブラ会』の撮影現場でのウィリアム・ザブカ(写真左)とラルフ・マッチオ(写真右)。(Photo by YouTube/Sony Pictures Television)

ー東海岸のアクセントを習得したのですか? それとも地ですか?

あれは完全に地だよ(マッチオはニューヨーク州出身)。脚本を読んだときに(ダニエルは)引き下がるような奴じゃないと思ったから、ちょっと強調したんだ。中学や高校によくいる、長いものに巻かれるタイプやけんかっ早い生意気な奴らを思い浮かべた。

ー結局のところ、ロングアイランドとニュージャージーのアクセントはほぼ同じということですね。

同じだよ。あいだに川が2本あるだけだからね。

ー前にブルース・スプリングスティーンがビリー・ジョエルを紹介するときに言っていました。昔は同じひとつの大陸だったと。

そのとおり。いい指摘だね。

Translated by Shoko Natori

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