Phewが語る時代の閉塞感「絶望的にもなるけど、私は音楽を続けていく」

 
技術を目標にしたくない

—『Vol.5』から選ばれた3曲は「The Very Ears Of Morning」「The Very Ears Of Dusk」「Midnight Awakening」と曲が進むにつれて、「朝(Morning)」「夕方(Dusk)」「真夜中(Midnight )」と時間が経過していきます。「Midnight Awakening」が最もダークな雰囲気が漂っていますが、声の使い方が独特ですね。

Phew:曲名は曲を作った後に思いつきで付けたので、曲を作っている時は時間の経過とかは意識してないんですよ。歌詞もあらかじめ書いたものではなくて、その場で思いついたことを言ってるんです。ただ、声と音の位置関係というか距離は考えました。

—その距離感が不思議な音響空間を生み出しています。

Phew:結果的にそうなっていたら嬉しいですね。声と音の距離感というのは、いつも頭の中にあることなんです。ちょっと前から、日本の地唄とか謡がすごく面白いと思っていて。あれは物語にあわせて三味線とか鼓とか入ってくるんですけど、その声と楽器との距離がすごく面白い。もともと、私には和声の感覚みたいなのが無いんですよ(笑)。



—発声の仕方など、ヴォーカルに対して何か意識していることはありますか?

Phew:特殊な発声方法ってあるじゃないですか、例えばホーミーとか。そういうことはやらないっていうことは前から決めてましたね。それって技術でしょ。訓練すれば、ある程度誰でも出来るようになる。そういうのって、私はあんまり好きじゃないです。すごく努力して何かが出来るようになると嬉しいのはわかるんですよ。すごく複雑なメロディを歌えるようになるとすごく嬉しい。だけど、そこで終わっちゃうんですよ、達成感だけで。特殊な声も「こんな声が出せるようになった」で終わっちゃう。それを目標にしたくないっていうか。

—技術を目標にしない、ということですね、

Phew:歌にしても演奏にしても、難しいことができるようになると楽しくなって、どんどん難しいことをやりたくなっちゃう。そっちの世界に行ったらまずいなっていうのは、割と早い時期からわかっちゃったんですよね。それは音楽を作ったり表現するのとは別のことになるって。『Voice Hardcore』も、そういうことから自由に、技術的なことを気にしないで作ったんです。

Photo by Masayuki Shioda

—声だけでアルバムを作ろうと思われたのは、何か理由があったんですか?

Phew:随分前から「ヴォイスだけで何か作りたいな」って考えてはいたんですけど、直接のきっかけは、あちこちツアーへ行ったことで、ちょっと体調を悪くしちゃって。で、なにか身体ひとつで出来ることができないかと思って、声だけを使ってマイクも極々簡素なものでいっきに作ったんです。発声のテクニックとかそういうことは考えなかった。声というのはひとつの方法で、声を使って大きな絵を描くっていうのかな。

—声で絵を描く?

Phew:例えば1曲目に「雨が降って来ました」って言う曲(「Very Cloudy」)があるんですけど、あれは雨が降るまでの経過、雲が厚くなって雲の色が変わって行くでしょ? その様子を声で描いたつもりなんです。だけど反省点は、雨は降ってないなって(笑)。それは声で表現出来るのかっていう課題は残りました。

—声を楽器のように使うシンガーもいますが、Phewさんの場合は絵の具がわりなんですね。そういえば以前、インタビューした時に「ボーカロイドをやりたい」とおっしゃってましたね。

Phew:それはすごくシンガー冥利に尽きるというか。人にそうやって自分の声を使ってもらえるというのはね。ただ、声を1音ずつ録音しないといけないわけでしょ。その手間とかを考えると、ちょっと大変だと思いますけど。

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